テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.04.10

激動の時代に求められる「企業戦略」とは?

激動の時代が求める企業戦略

 日々、新しい技術、サービスが開発され、異業種参入も当たり前の現代。安定から激動の時代となり、企業の経営戦略には「ダイナミック・ケイパビリティ」の必要性が説かれています。

 かのスティーブ・ジョブズも「リーダーシップとはビジョンを示すこと」と言ったそうですが、これからの戦略的経営者は、変化に対応するためのイノベーションを組織ぐるみでまとまって起こしていくために、ビジョンを示していかなければなりません。そのリーダーシップに求められるのが、ダイナミック・ケイパビリティなのです。

「ケイパビリティ」を「包丁とフグ」で説明する

 この経営戦略は、分かりやすく言い換えれば「変える力、変わる力」ということなのですが、単なるケイパビリティと、どのような違いがあるのでしょう。そもそも、ケイパビリティとはどのような概念なのか。慶應義塾大学商学部教授・谷口和弘氏が、「包丁とフグ」を例に分かりやすく解説してくれました。

 ケイパビリティとは、持っているリソースを価値のある活動に変換するために必要な能力やプロセス、知識のこと。例えば、包丁とフグだけがあっても、そのままでは誰もフグの味、その美味しさを知ることはできません。いい道具を揃えたら、きちんと手入れをする。毒のあるフグを適切に処理、加工する方法、さらには、フグ刺しにしたり唐揚げ、鍋にしたりとさまざまな調理法を駆使する。こうした幾多の技術や知識、プロセス、つまりそうしたケイパビリティをもって、初めて「フグは美味い」と人々をうならせるだけの価値が生まれるわけです。

ケイパビリティには低次と高次の二種類がある

 次にケイパビリティとの違いについてですが、ケイパビリティには、低次と高次の二種類があります。低次のケイパビリティとは、何らかのオペレーションをするのに必要なもの。どの企業でもできそうなこと、業界で共通して持っている能力、知識ということになります。

 これに対して、高次のケイパビリティとは、問題に気づく・問題解決のためにビジネスモデルや仕組みをつくる・環境の変化に応じてビジネスモデル、仕組みを変化させる、というように、いくつものケイパビリティを緻密かつ大胆に組み換えていく能力のこと。この高次のケイパビリティをダイナミック・ケイパビリティと位置付けているのです。

 どんなに優れたリソースがあっても、それを活かしていなかったり、他社の優良事例を真似てベンチマーキングに終始するだけでは、宝の持ち腐れで終わってしまいます。リソースを自社ならではの価値創造に高め、時代や環境の変化に合わせて独自の価値を維持し続けるようにしていくのがポイントなのです。先述のフグの話でいえば、極上のフグが手に入ったら、その素材の良さに頼るだけでなく、道具、加工技術、調理法、魅せ方、あらゆる方法の組み合わせで、フグの価値を最大限に高める、そうした能力、あるいはそうした料理を提供する最高の店であり続ける能力ということになります。

戦略の柱となるシグネチャ・プロセス

 経営戦略に基づいた実際の行動に落とし込んでいく際に重要なのが、「シグネチャ・プロセス」です。シグネチャ・プロセスとは一言で表せば、「会社の歴史である」と谷口氏は言います。

 どういう経緯で会社が作られ、発展してきたのか。創業者はどのようなビジョンで会社を作りあげたのか、さまざまな「ストーリー」で紡がれてきた会社の「ヒストリー」を認識し、会社の柱とする、このシグネチャ・プロセスが非常に重要なのです。会社の歴史を知り、弱点や強みを把握してこそ独自の価値創造が可能になるわけです。

 激動の時代の指針となるダイナミック・ケイパビリティという考え方の芯に、シグネチャ・プロセスのような「温故知新」的な過程が息づいているというのも、とても興味深いことですね。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

『失敗の本質』より先に指摘した日本型組織の弱点

『失敗の本質』より先に指摘した日本型組織の弱点

『タテ社会の人間関係』と文明論(7)日本型組織とリーダーシップの問題

日本軍研究で知られる『失敗の本質』よりも前に、日本型組織の弱点を指摘していた『タテ社会の人間関係』。日本の軍隊と英米の軍隊を例にとって、人間関係を重視する日本型組織の特徴を鋭く指摘、さらに法然と弟子の話を取り上...
収録日:2024/05/27
追加日:2024/09/19
2

オウンゴールも!?ロシアにとって許しがたいNATO拡大の背景

オウンゴールも!?ロシアにとって許しがたいNATO拡大の背景

ロシアのハイブリッド戦争と旧ソ連諸国(1)ロシアの勢力圏構想とNATO拡大

長期化の様相を呈しているロシア・ウクライナ戦争。ウクライナに対してロシアが仕掛けているのは、多角的な手段を用いた「ハイブリッド戦争」である。それはいったいどのような戦略なのか。本シリーズ講義では、まずはこの戦争...
収録日:2024/07/25
追加日:2024/09/18
廣瀬陽子
慶應義塾大学総合政策学部教授
3

人の資本主義とは――新しい人間像と現代資本主義への警鐘

人の資本主義とは――新しい人間像と現代資本主義への警鐘

人の資本主義~モノ、コトの次は何か?(1)「人の資本主義」とは何か

「人間とは何か」「資本主義とは何か」、この二つの問い、その概念は歴史の上で常に変化し続けているという中島氏。「人の資本主義」は人と資本主義の合成語だが、両者を結合するとどのような反応がもたらされるか。今よりもよ...
収録日:2024/04/11
追加日:2024/07/27
中島隆博
東京大学東洋文化研究所長・教授
4

どうすれば「最高の睡眠」は実現するか…健康な睡眠とは?

どうすれば「最高の睡眠」は実現するか…健康な睡眠とは?

「最高の睡眠」へ~知っておくべき睡眠常識(1)健康な睡眠のための方法

人生の約3分の1を、人は寝て過ごす。人間にとって不可欠な「睡眠」について、まだ分かっていないことが多く、睡眠ストレスや寝不足に悩む人は多い。現代人はどのように生活すれば最高の睡眠を得られるのだろうか。その前に、そ...
収録日:2021/06/23
追加日:2021/09/14
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授
5

生物学的性差と文化的ジェンダー概念の入れ子構造の難しさ

生物学的性差と文化的ジェンダー概念の入れ子構造の難しさ

ヒトの性差とジェンダー論(5)生物学的性差と文化

第二次世界大戦下、その影響で飢餓が続いたオランダで集団としてそのときに生まれた男の子にゲイが多いという話がある。それは母親が極度のストレスを受けた生物学的影響だというが、一方で日本の戦国時代のような戦場で見られ...
収録日:2024/05/18
追加日:2024/09/16
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長