テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.04.11

コンビニのおにぎりが小さくなるってホント?

 コンビニにずらりと並ぶ多種多様なおにぎり。みなさんにもお気に入りの具材や、「このコンビニのおにぎりがおいしい!」といったこだわりがあるかもしれません。自宅でも手軽に作れるファストフードですが、現代において、コンビニのおにぎりを食べたことがないという日本人は、ほとんどいないのではないでしょうか。

 ところが、そんな身近なコンビニのおにぎりが、小さくなってしまうかもしれないのです。

おにぎり縮小化の原因は「業務用米」の不足

 家庭向けに販売される米は「家庭用米」といわれ、名前のついたブランド米などが流通しています。対して、コンビニのおにぎりに使われているお米は「業務用米」といって、比較的安価な米です。

 今、この「業務用米」が従来の2割ほど値上がりしているのです。

 原因は、レストランなどでの「外食」に加え、スーパーやコンビニなどでおにぎりや総菜を買い自宅で食べる、いわゆる「中食」の消費が増えたことにあります。農林水産省発表の「米の消費拡大について」の調査(平成28年11月)によると、「米の消費における家庭内、外食・中食の占める割合」では、外食・中食の割合が平成9年は18.9%でしたが、平成27年には31.0%と、20年弱のあいだに着々と増えています。

 そして、今年2月のYahoo!ニュースでは、こうした外食産業やコンビニなどで必要とされている業務用米約250万トンのところ実際の供給量は約120万トンで、約130万トン不足していることが農水省の試算で分かった、と伝えています。つまり、必要量に対して半分にも満たない生産量ということです。こうして需要と供給のバランスが崩れてしまい、値上がりに繋がってしまいました。

 おにぎりの魅力のひとつは、価格の手軽さにあります。一般的にコンビニやスーパーで取り扱っているおにぎりは100~200円程度。メーカー側としては値段を上げることは極力避けたいでしょう。すでに1割ほど米の量を減らしておにぎりを作っている工場も出て来ていると聞いていますし、少しずつ「おにぎり縮小化」の波は広まりつつあるのです。

国の政策が、複雑に絡んだ結果の生産減

 ならば純粋に「米の生産量を増やせばいいのでは?」と思われる方も多いかもしれません。ところが、業務用米の不足は、外食・中食の増加だけが原因ではないのです。この問題には、米の生産を担っている農家の方々の事情も絡んできます。

 中学校や高校で「減反政策」という言葉を習ったことがあるのではないでしょうか。「減反政策」とは、米を作りすぎて価格破壊を招かないように、お米の生産を制限する政策のことです。平成30年にこの政策は廃止される予定ですが、生産量が突然増えるのは問題です。そこで国は、家畜のエサとなる「飼料用米」の生産に補助金を出すことを決めたのです。

 それは、食用の米の作りすぎを防ぎ、価格の安定化を狙っての政策ですが、年ごとに価格に差の出る業務用米よりも飼料用米の方が安定した経営ができ、補助金までもらえる。農家の方々にも生活がありますから、飼料用米の生産に移行する農家が増えました。

 市場では必要とされているはずの業務用米ですが、実際に生産する農家は減っているというのが現状なのです。

おにぎりに現れる社会の変化

 また、飼料用米の生産とは別に、ブランド米の生産に力を入れる農家も増えています。家庭用米の供給量は年々下がっているものの、ブランド米の需要は高く、また米そのものに高い価値がつくため、新たに参入を試みる農家も多いのです。こちらも業務用米の生産量低下に影響を与えています。

 外食や中食が一般化し、業務用米が必要とされているなか、お米本来の価格を崩してしまったり、生産量を減らしてしまうことは得策ではありません。この状況に国も危機感を募らせ、業務用米の生産を各地の農家に呼びかけているのです。

 ということで、コンビニのおにぎり一つにも、日本経済、日本社会の変化が現れるのです。この問題、今後どういった方向に進んでいくのか、日本人にとって大事な主食であるお米だけに目が離せませんね。

<参考サイト>
・農林水産省:「米の消費拡大について」(平成28年11月)
・Yahoo!ニュース:主食用16年産米用途 130万トン不均衡 家庭用過剰に 業務への誘導課題
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

『失敗の本質』より先に指摘した日本型組織の弱点

『失敗の本質』より先に指摘した日本型組織の弱点

『タテ社会の人間関係』と文明論(7)日本型組織とリーダーシップの問題

日本軍研究で知られる『失敗の本質』よりも前に、日本型組織の弱点を指摘していた『タテ社会の人間関係』。日本の軍隊と英米の軍隊を例にとって、人間関係を重視する日本型組織の特徴を鋭く指摘、さらに法然と弟子の話を取り上...
収録日:2024/05/27
追加日:2024/09/19
2

オウンゴールも!?ロシアにとって許しがたいNATO拡大の背景

オウンゴールも!?ロシアにとって許しがたいNATO拡大の背景

ロシアのハイブリッド戦争と旧ソ連諸国(1)ロシアの勢力圏構想とNATO拡大

長期化の様相を呈しているロシア・ウクライナ戦争。ウクライナに対してロシアが仕掛けているのは、多角的な手段を用いた「ハイブリッド戦争」である。それはいったいどのような戦略なのか。本シリーズ講義では、まずはこの戦争...
収録日:2024/07/25
追加日:2024/09/18
廣瀬陽子
慶應義塾大学総合政策学部教授
3

人の資本主義とは――新しい人間像と現代資本主義への警鐘

人の資本主義とは――新しい人間像と現代資本主義への警鐘

人の資本主義~モノ、コトの次は何か?(1)「人の資本主義」とは何か

「人間とは何か」「資本主義とは何か」、この二つの問い、その概念は歴史の上で常に変化し続けているという中島氏。「人の資本主義」は人と資本主義の合成語だが、両者を結合するとどのような反応がもたらされるか。今よりもよ...
収録日:2024/04/11
追加日:2024/07/27
中島隆博
東京大学東洋文化研究所長・教授
4

どうすれば「最高の睡眠」は実現するか…健康な睡眠とは?

どうすれば「最高の睡眠」は実現するか…健康な睡眠とは?

「最高の睡眠」へ~知っておくべき睡眠常識(1)健康な睡眠のための方法

人生の約3分の1を、人は寝て過ごす。人間にとって不可欠な「睡眠」について、まだ分かっていないことが多く、睡眠ストレスや寝不足に悩む人は多い。現代人はどのように生活すれば最高の睡眠を得られるのだろうか。その前に、そ...
収録日:2021/06/23
追加日:2021/09/14
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授
5

生物学的性差と文化的ジェンダー概念の入れ子構造の難しさ

生物学的性差と文化的ジェンダー概念の入れ子構造の難しさ

ヒトの性差とジェンダー論(5)生物学的性差と文化

第二次世界大戦下、その影響で飢餓が続いたオランダで集団としてそのときに生まれた男の子にゲイが多いという話がある。それは母親が極度のストレスを受けた生物学的影響だというが、一方で日本の戦国時代のような戦場で見られ...
収録日:2024/05/18
追加日:2024/09/16
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長