社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
「世界一裕福な国」サウジアラビアが抱える問題点
2017年3月にサウジアラビアのサルマン国王が来日しました。サウジ国王の来日は46年ぶりということに加え、王族一族を引き連れての旅が話題となりました。その豪勢な様子にさまざまな業界の「特需」が噂されたほどなのですが、実際には「世界一裕福な国サウジアラビア」の神話は崩れつつあるのです。
もともとサウジアラビアは石油をはじめとする地下資源が豊富な国。労働の対価で稼ぐことなく、地下から湧きあがってくる資源で国家収入を得てきました。このような非稼得性の収入で成り立っている国を「レンティア国家」と呼びます。石油という天然の恵みから得た利益は国民に再配分され、教育や医療を無料にしたり、福利厚生を手厚くして日常生活においても高い支出をしなくて済むようにするなどして、国家が人々の生活を支えてくれます。働き蜂国家日本から見れば、夢のような国がサウジアラビアだったのです。
しかし、2016年に入り原油価格は急激に下落しました。このことが国家収入を石油に依存していたサウジアラビアの財政を直撃し、今や「世界一裕福な国」は財政赤字に息もたえだえの国になったのです。
サウジアラビアの国教は、イスラムスンナ派の厳格化を求めた流れにあるワッハーブ派で、シーア派盟主国であるイランとの対立は、歴史的にも長く根深いものがあります。また、復古的な禁欲主義であるワッハーブ派を国教とし、市民に対しても厳格なイスラム法を適用する一方で、サウジアラビアの王族やエリートは海外で享楽主義的な消費行動をとることで知られています。こうしたサウジアラビアが見せる建前と本音、いわば二重基準を、イランは厳しく批判してきました。
イランが、原油安であるにもかかわらず増産を打ち出し、サウジアラビアに低価格での消耗戦争を挑んでいる背景には、こうした積年の対立関係があるのです。
サウジアラビアとイランの関係を注視しつつ、「国民があくせく働かなくても暮らしていける国」などという幻想は抱かずに、日本は日本らしく真面目にコツコツ働くのが一番のようです。
原油価格の下落でレンティア国家存続の危機
サウジアラビアは今、多くの問題点、不安材料を抱えており、巨額の財政赤字に陥っている、と歴史学者の山内昌之氏は語ります。その最大の要因となっているのが原油安です。もともとサウジアラビアは石油をはじめとする地下資源が豊富な国。労働の対価で稼ぐことなく、地下から湧きあがってくる資源で国家収入を得てきました。このような非稼得性の収入で成り立っている国を「レンティア国家」と呼びます。石油という天然の恵みから得た利益は国民に再配分され、教育や医療を無料にしたり、福利厚生を手厚くして日常生活においても高い支出をしなくて済むようにするなどして、国家が人々の生活を支えてくれます。働き蜂国家日本から見れば、夢のような国がサウジアラビアだったのです。
しかし、2016年に入り原油価格は急激に下落しました。このことが国家収入を石油に依存していたサウジアラビアの財政を直撃し、今や「世界一裕福な国」は財政赤字に息もたえだえの国になったのです。
サウジアラビア国内の不安材料
もはやレンティア国家として存続できなくなっているサウジアラビアの不安材料は、国内外で増しています。国内の不安要因の第一は、人口約3000万人の70パーセントが30歳以下の若年層であること。少子高齢化社会・日本とまったく逆の人口バルジ(厚み)を見せるこの人口構成は、近い将来に大量の不完全雇用、失業状態を生むということを意味しています。職を失い不満を抱える若者が、イスラム国やアルカイダにひかれていくことも懸念され、すでにその兆候は表れているといわれています。さらに、主に重労働、肉体労働を担っている800万人におよぶ外国人労働者の不満も募ってきており、国内秩序、国政の安定に影をおとしているのです。国外からはイランの脅威
国内でこれだけの不安要素を抱えるサウジアラビアですが、対外的な問題も多く、そのなかでもイランによる圧力、軋轢が最も大きい、と山内氏は語ります。サウジアラビアの国教は、イスラムスンナ派の厳格化を求めた流れにあるワッハーブ派で、シーア派盟主国であるイランとの対立は、歴史的にも長く根深いものがあります。また、復古的な禁欲主義であるワッハーブ派を国教とし、市民に対しても厳格なイスラム法を適用する一方で、サウジアラビアの王族やエリートは海外で享楽主義的な消費行動をとることで知られています。こうしたサウジアラビアが見せる建前と本音、いわば二重基準を、イランは厳しく批判してきました。
イランが、原油安であるにもかかわらず増産を打ち出し、サウジアラビアに低価格での消耗戦争を挑んでいる背景には、こうした積年の対立関係があるのです。
レンティア国家という幻想
サウジアラビアが音頭を取って結成したGCC(湾岸協力会議)は元来、イランの脅威に対抗してつくられたものですが、今、サウジアラビアをはじめとするクウェート、バーレーン、カタールなどのGCC諸国は、その多くが原油安の影響で、国家財政の見直しを迫られているのが実情です。サウジアラビアとイランの関係を注視しつつ、「国民があくせく働かなくても暮らしていける国」などという幻想は抱かずに、日本は日本らしく真面目にコツコツ働くのが一番のようです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。
『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
『失敗の本質』より先に指摘した日本型組織の弱点
『タテ社会の人間関係』と文明論(7)日本型組織とリーダーシップの問題
日本軍研究で知られる『失敗の本質』よりも前に、日本型組織の弱点を指摘していた『タテ社会の人間関係』。日本の軍隊と英米の軍隊を例にとって、人間関係を重視する日本型組織の特徴を鋭く指摘、さらに法然と弟子の話を取り上...
収録日:2024/05/27
追加日:2024/09/19
オウンゴールも!?ロシアにとって許しがたいNATO拡大の背景
ロシアのハイブリッド戦争と旧ソ連諸国(1)ロシアの勢力圏構想とNATO拡大
長期化の様相を呈しているロシア・ウクライナ戦争。ウクライナに対してロシアが仕掛けているのは、多角的な手段を用いた「ハイブリッド戦争」である。それはいったいどのような戦略なのか。本シリーズ講義では、まずはこの戦争...
収録日:2024/07/25
追加日:2024/09/18
人の資本主義とは――新しい人間像と現代資本主義への警鐘
人の資本主義~モノ、コトの次は何か?(1)「人の資本主義」とは何か
「人間とは何か」「資本主義とは何か」、この二つの問い、その概念は歴史の上で常に変化し続けているという中島氏。「人の資本主義」は人と資本主義の合成語だが、両者を結合するとどのような反応がもたらされるか。今よりもよ...
収録日:2024/04/11
追加日:2024/07/27
どうすれば「最高の睡眠」は実現するか…健康な睡眠とは?
「最高の睡眠」へ~知っておくべき睡眠常識(1)健康な睡眠のための方法
人生の約3分の1を、人は寝て過ごす。人間にとって不可欠な「睡眠」について、まだ分かっていないことが多く、睡眠ストレスや寝不足に悩む人は多い。現代人はどのように生活すれば最高の睡眠を得られるのだろうか。その前に、そ...
収録日:2021/06/23
追加日:2021/09/14
生物学的性差と文化的ジェンダー概念の入れ子構造の難しさ
ヒトの性差とジェンダー論(5)生物学的性差と文化
第二次世界大戦下、その影響で飢餓が続いたオランダで集団としてそのときに生まれた男の子にゲイが多いという話がある。それは母親が極度のストレスを受けた生物学的影響だというが、一方で日本の戦国時代のような戦場で見られ...
収録日:2024/05/18
追加日:2024/09/16