テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.08.10

あの「広告代理店」は一体何をしているのか?

 「広告業界」と聞いたとき、まず誰もが思い浮かべるのが「電通」ではないでしょうか。業界2位の博報堂、3位のアサツーディ・ケイを知らなくても電通のことは誰もが知っているはずです。

 電通が有名なのは、さまざまな噂話やスキャンダルのためだけではないでしょう。広告業界では国内ダントツのトップ、海外でも業界5位の実績があり、近年は海外展開をいっそう加速させています。

電通も苦戦するデジタル広告

 いま、広告業界は激動の時代を迎えています。インターネット広告の急速な拡大がその背景にあります。業界の売上高ランキングにインターネット広告会社を含めると、2015年の時点でも、既存の大手をおさえて、トップ5に2社のインターネット広告会社が食い込んできます。

 一昨年、電通の女性社員の過労自殺が大きく報じられましたが、彼女の所属はデジタル・アカウント部というインターネット広告を扱う部署でした。この過労自殺報道が発覚する直前には、インターネット広告の過大請求問題が取りざたされました。

 このような事件が続出することから予想できますが、電通はネット広告では少々苦戦しているようです。

世界でもブラック企業で有名?

 ネット広告の過大請求の事件は、英国紙の「フィナンシャル・タイムズ」がすっぱ抜きました。米国人ジャーナリストのJ.アデルシュタイン氏は「日本の広告業界では今なお”天下の電通”かもしれないが、一部の外国特派員の間では、いまや”ブラック企業”の代名詞になっている」と指摘しています。

 なぜなら、海外では電通ほど不祥事を報道される日本企業は他に見当たらないのだそうです。ただし、電通に限らず、アメリカの広告業界でも不透明な広告リベートの横行などブラックな慣習は見られるとも述べています。

 とはいえ、「電通のスケールには及ばない」とも付け加えています。

電通にしかできないこと

 社外からは悪者扱いされることの多い電通ですが、『電通と博報堂は何をしているのか』の著者である中川淳一郎氏は、長時間労働であることは否めないが、給料もステータスも高い電通の社員のほとんどはブラック企業だと思っていないのではないだろうかと述べています。

 電通のスゴいところはダイナミックさにあります。おそらくオリンピックとワールドカップをきちんと仕切れるのは、電通以外にはありえません。

 ところが、こうした電通や博報堂など既存の大手代理店にしかにできないダイナミックな仕事が減っているのが現状です。さらには電通や博報堂はネット広告に対して長らく本気で取り組んではきませんでした。それがいま苦戦している大きな理由です。

『気まぐれコンセプト』は80%当たっている

 余談になりますが、中川さんの電通と博報堂の比較が興味深いので、少しご紹介します。2社の社風の違いは、「忠義の電通」と「ビジネスの博報堂」で表せるそうです。

 電通は、「断らないこと」をモットーにどこまでもクライアントに忠義を尽くします。それに対して博報堂はちょっと八方美人なところがあり、けれどもアーティスティックで独立志向が強いとのこと。ちなみに、給料はだいたい「電通×70%=博報堂」ほどの違いがあるそうです。

 広告業界で働く人の実態を知りたい方は、漫画『気まぐれコンセプト』(ホイチョイ・プロダクションズ著、小学館)を読めば大体わかるとも述べています。『気まぐれコンセプト』は、広告業界の「チャラい」「社畜」「大げさ」なところをデフォルメして描いています。

 広告業界で働く当事者によると、それが「80%は当たっている」そうです。未読の方はぜひ一度手に取ってみてください。読んでいただければ分かると思いますが、これが「80%は当たっている」のはいろんな意味で驚きです。

<参考文献>
・『広告〈2018年度版〉( 産業と会社研究シリーズ)』(西正監修、産学社)
・『ZAITEN 2016年12月号』(財界展望新社)
・『電通と博報堂は何をしているのか』(中川淳一郎著、星海社新書)
・『電通とFIFA サッカーに群がる男たち』(田崎健太著、光文社新書)
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

『失敗の本質』より先に指摘した日本型組織の弱点

『失敗の本質』より先に指摘した日本型組織の弱点

『タテ社会の人間関係』と文明論(7)日本型組織とリーダーシップの問題

日本軍研究で知られる『失敗の本質』よりも前に、日本型組織の弱点を指摘していた『タテ社会の人間関係』。日本の軍隊と英米の軍隊を例にとって、人間関係を重視する日本型組織の特徴を鋭く指摘、さらに法然と弟子の話を取り上...
収録日:2024/05/27
追加日:2024/09/19
2

オウンゴールも!?ロシアにとって許しがたいNATO拡大の背景

オウンゴールも!?ロシアにとって許しがたいNATO拡大の背景

ロシアのハイブリッド戦争と旧ソ連諸国(1)ロシアの勢力圏構想とNATO拡大

長期化の様相を呈しているロシア・ウクライナ戦争。ウクライナに対してロシアが仕掛けているのは、多角的な手段を用いた「ハイブリッド戦争」である。それはいったいどのような戦略なのか。本シリーズ講義では、まずはこの戦争...
収録日:2024/07/25
追加日:2024/09/18
廣瀬陽子
慶應義塾大学総合政策学部教授
3

人の資本主義とは――新しい人間像と現代資本主義への警鐘

人の資本主義とは――新しい人間像と現代資本主義への警鐘

人の資本主義~モノ、コトの次は何か?(1)「人の資本主義」とは何か

「人間とは何か」「資本主義とは何か」、この二つの問い、その概念は歴史の上で常に変化し続けているという中島氏。「人の資本主義」は人と資本主義の合成語だが、両者を結合するとどのような反応がもたらされるか。今よりもよ...
収録日:2024/04/11
追加日:2024/07/27
中島隆博
東京大学東洋文化研究所長・教授
4

どうすれば「最高の睡眠」は実現するか…健康な睡眠とは?

どうすれば「最高の睡眠」は実現するか…健康な睡眠とは?

「最高の睡眠」へ~知っておくべき睡眠常識(1)健康な睡眠のための方法

人生の約3分の1を、人は寝て過ごす。人間にとって不可欠な「睡眠」について、まだ分かっていないことが多く、睡眠ストレスや寝不足に悩む人は多い。現代人はどのように生活すれば最高の睡眠を得られるのだろうか。その前に、そ...
収録日:2021/06/23
追加日:2021/09/14
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授
5

生物学的性差と文化的ジェンダー概念の入れ子構造の難しさ

生物学的性差と文化的ジェンダー概念の入れ子構造の難しさ

ヒトの性差とジェンダー論(5)生物学的性差と文化

第二次世界大戦下、その影響で飢餓が続いたオランダで集団としてそのときに生まれた男の子にゲイが多いという話がある。それは母親が極度のストレスを受けた生物学的影響だというが、一方で日本の戦国時代のような戦場で見られ...
収録日:2024/05/18
追加日:2024/09/16
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長