テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.10.30

東京の「満員電車ゼロ」公約は実現できるのか?

 「満員電車をなくす」――この取り組みについては、希望の党が10月22日に行われた総選挙の公約とともに「12のゼロ」のなかで掲げていましたが、小池百合子都知事が公約として挙げていたことでもあります。

 通勤ラッシュは誰もがなくなってほしいと思いますが、仕方がないと受け入れざるを得ないのが現状です。では、満員電車はいったいどれほど、通勤者を苦しめているのでしょうか。

満員電車によるストレスは戦闘機のパイロット以上

 10年以上前にはなりますが、2004年にイギリスのBBCは、満員電車の通勤者には、臨戦態勢の戦闘機のパイロットや機動隊の隊員よりも大きなストレスがかかっていると報じました。

 これはイギリスの心理学者デイヴィッド・ルイス博士が通勤者125人の通勤者の心拍数と血圧を測り、パイロット、警察官のものと比較した結果、通勤者のストレスが極度に高かったという研究結果に基づいています。

 ルイス博士は「戦闘機のパイロットや機動隊員は、ある程度、目前の出来事によって引き起こされるストレスに対処できるが、電車に乗っている通勤者は何も対策ができない。この“どうしようもない”という無力感がさらにストレスに拍車をかけてしまうのだ」といいます。

 また、ルイス博士は「長い目で見たとき、病気を引き起こすかどうかまではわからない」としていましたが、調査では、一部の人には収縮期血圧(いわゆる上の血圧のこと)が170-180という結果が出ており、少なくとも体に良さそうな結果は出ていませんでした。

日本での調査結果は?

 日本にも次のような調査結果があります。国土交通省の「国土交通政策研究 国土交通政策研究 第55号交通の健康学的影響に関する研究」では、交通機関利用時に受けるストレスを生理学的指標を用いて、測定・分析を行っています。

そこでは、通勤時の鉄道において混雑度が高くなると潜在的ストレス対応力が低下する、乗車時間が長くなると慢性疲労化しやすい、通勤時間から乗車時間を除いた時間が15分以上の群ではストレス上昇が小さいなどの結果が出ています。ストレスと生理学的指標との関連については、完全に解明されていないとしていますが、満員電車によるストレスへの影響が示唆されています。

満員電車は改善されるのか?

 では、私たちを苦しめる満員電車は改善されるのでしょうか?小池都知事は、満員電車ゼロの具体的な取り組みのひとつとして、「時差Biz(ビズ)」を提唱しています。その内容を一言でいうと、会社によって出勤の時間をずらすというもの。しかし、どれだけの企業が参加するのかが不透明という問題や、出勤時間が早くなっても、帰る時間は変わらず、長時間労働を助長することになるのでは、という懸念もあります。

 他にも『満員電車がなくなる日』の著者である阿部等氏が提唱した「2階建て通勤電車の導入」という方策があります。しかしこれは、コストがかかりすぎるという問題や乗り降りで不便が生じるという問題があり、現実的には難しいと言われています。

満員電車の解消実現に向けて

 2020年の東京オリンピックに向けて快適な国作りへの取り組みが始められていますが、満員電車の解消が実現するのかは、まだわかりません。

 電車を利用していると、よく「△△線はよくダイヤが乱れる」「○○線は人が多すぎる」などさまざまな愚痴を聞きますが、朝の混雑する時間帯にこれだけ多くの人を乗せていながら、あまり不便を感じないのは、鉄道会社の正確で誠実な対応によるものです。電車を使って通う人、電車で通勤する人を雇う企業、電車で通学する人が通う教育機関などが一体となって、この問題に対し目を向けていけば、解決できる日も近くなるかもしれません。

<参考サイト>
・BBC NEWS  Commuters 'suffer extreme stress'
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/4052861.stm
・国土交通省 国土交通政策研究 国土交通政策研究 第 55 号 交通の健康学的影響に関する研究
http://www.mlit.go.jp/pri/houkoku/gaiyou/pdf/kkk55.pdf
・東京都 時差Bizとは
https://jisa-biz.tokyo/about/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

『失敗の本質』より先に指摘した日本型組織の弱点

『失敗の本質』より先に指摘した日本型組織の弱点

『タテ社会の人間関係』と文明論(7)日本型組織とリーダーシップの問題

日本軍研究で知られる『失敗の本質』よりも前に、日本型組織の弱点を指摘していた『タテ社会の人間関係』。日本の軍隊と英米の軍隊を例にとって、人間関係を重視する日本型組織の特徴を鋭く指摘、さらに法然と弟子の話を取り上...
収録日:2024/05/27
追加日:2024/09/19
2

オウンゴールも!?ロシアにとって許しがたいNATO拡大の背景

オウンゴールも!?ロシアにとって許しがたいNATO拡大の背景

ロシアのハイブリッド戦争と旧ソ連諸国(1)ロシアの勢力圏構想とNATO拡大

長期化の様相を呈しているロシア・ウクライナ戦争。ウクライナに対してロシアが仕掛けているのは、多角的な手段を用いた「ハイブリッド戦争」である。それはいったいどのような戦略なのか。本シリーズ講義では、まずはこの戦争...
収録日:2024/07/25
追加日:2024/09/18
廣瀬陽子
慶應義塾大学総合政策学部教授
3

人の資本主義とは――新しい人間像と現代資本主義への警鐘

人の資本主義とは――新しい人間像と現代資本主義への警鐘

人の資本主義~モノ、コトの次は何か?(1)「人の資本主義」とは何か

「人間とは何か」「資本主義とは何か」、この二つの問い、その概念は歴史の上で常に変化し続けているという中島氏。「人の資本主義」は人と資本主義の合成語だが、両者を結合するとどのような反応がもたらされるか。今よりもよ...
収録日:2024/04/11
追加日:2024/07/27
中島隆博
東京大学東洋文化研究所長・教授
4

どうすれば「最高の睡眠」は実現するか…健康な睡眠とは?

どうすれば「最高の睡眠」は実現するか…健康な睡眠とは?

「最高の睡眠」へ~知っておくべき睡眠常識(1)健康な睡眠のための方法

人生の約3分の1を、人は寝て過ごす。人間にとって不可欠な「睡眠」について、まだ分かっていないことが多く、睡眠ストレスや寝不足に悩む人は多い。現代人はどのように生活すれば最高の睡眠を得られるのだろうか。その前に、そ...
収録日:2021/06/23
追加日:2021/09/14
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授
5

生物学的性差と文化的ジェンダー概念の入れ子構造の難しさ

生物学的性差と文化的ジェンダー概念の入れ子構造の難しさ

ヒトの性差とジェンダー論(5)生物学的性差と文化

第二次世界大戦下、その影響で飢餓が続いたオランダで集団としてそのときに生まれた男の子にゲイが多いという話がある。それは母親が極度のストレスを受けた生物学的影響だというが、一方で日本の戦国時代のような戦場で見られ...
収録日:2024/05/18
追加日:2024/09/16
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長