テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.04.02

魚の4割にプラスチックが入っているって本当?

 タンカーの事故による原油流出や工場排水に含まれる有害物質などの海洋汚染は、今までに何度も社会問題になってきました。そして新たに、2010年代はじめ頃から問題視されるようになってきたのが、マイクロプラスチックによる汚染です。

 マイクロプラスチックとは、微細なプラスチックごみを指します。環境省の規定では5mm以下とされており、このうちマイクロサイズで製造されたビーズ状のプラスチックは特にマイクロビーズといいます。

魚の体内からマイクロプラスチックが

 京都大学の田中周平准教授(環境工学)のチームが東京湾や大阪湾で行った調査では、採取した魚の約4割からマイクロプラスチックが発見されました。中でも最も割合が高かったのは東京湾のカタクチイワシで、なんと約8割から発見されています。

 マイクロプラスチックに汚染された魚をより大きな魚が食べれば、そこに汚染が広がります。そしていずれは人間が食べてしまいます。多くの環境破壊同様、人間と無関係ではないのです。

マイクロプラスチックの正体とは

 それでは、マイクロプラスチックの正体は何なのでしょうか。大きく分けると2種類あります。まず、レジ袋やペットボトルなどのプラスチック製品が紫外線を受けてもろくなり、波で砕かれて微細になったもの。もうひとつは、歯磨き粉や洗顔料などに含まれるスクラブ剤。つまり、はじめから細かいビーズ状につくられたマイクロビーズです。

 この汚染は日本だけでなく全世界に広がっており、海外諸国ではマイクロプラスチックを禁止する動きが活発です。アメリカでは、2017年1月にマイクロビーズを含む洗い流すタイプの化粧品が製造禁止になりました。またイギリスでは、今年1月にマイクロビーズを含む商品の製造が禁止されています。

 一方、日本ではまだ規制はありません。成分表示も統一されていないため、メーカーごとに「ポリエチレン」、「ポリエチレン末」、「コポリマー」などばらばらの表記なのが現状です。しかし、メーカーが自主的にマイクロビーズの使用を控える例は増えています。たとえば花王は、2016年中に使用を終了しました。

どんな影響があるかはまだわからない

 スクラブ剤として使用されているマイクロビーズはとても小さいので、洗面所やお風呂で洗い流されると下水処理場を素通りして海に放出されます。プラスチックは微生物によって分解されることがないので、どんなに細かく砕けても決してなくならず、ずっと海を漂い続けます。この表面に海中の有害物質が付着するかもしれませんし、プラスチック自体に有害物質が含まれていることもあります。

 そしてなにより、海に本来あるはずのないものが大量に流れ込んでいることは事実。栄養のないプラスチックを食べた魚が満腹だと勘違いすれば発育不良になります。海洋の生態系を乱す可能性は高いでしょう。

 ただし、マイクロプラスチックが人体に健康被害をもたらすかはまだわかっていません。プラスチックは消化されないので、食べたとしてもそのまま体外に排出されると考えられます。神経質になりすぎず、冷静に情報を選別する必要があります。

そもそもスクラブ剤は必要なのか

 むしろ健康によくないという点では、スクラブ剤のほうがはっきりしているでしょう。スクラブ剤は多くの皮膚科医が使用しないでほしいと考えています。

 スクラブ洗顔をした直後は表面がつるつるしてきれいになった気になりますが、角質層までこそげ取っているのですぐ乾燥してしまいます。皮膚科医の柴亜伊子医師はスクラブ洗顔について「砂利や砂で顔を洗っているのと同じくらいの刺激」と表現しています。

 柴医師が語るように、多くの人は雑誌やTVなどから聞こえてくる「スクラブは必要」という呪文のような言葉にとらわれているのかもしれません。本当にスクラブ洗顔する必要があるのか、きちんと自分の頭で考えなくてはいけません。

 自分の肌を守るため、そして大切な海を守るためにどうすればいいか、今後の行動が求められているということですね。

<参考サイト>
・毎日新聞:魚4割に微細プラ片 東京湾など調査、海の汚染深刻
https://mainichi.jp/articles/20170919/ddm/041/040/047000c
・京都四条あいこ皮フ科クリニック院長ブログ:スクラブ洗顔
http://www.aiko-hifuka-clinic.net/2012/07/post-475.html
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

『失敗の本質』より先に指摘した日本型組織の弱点

『失敗の本質』より先に指摘した日本型組織の弱点

『タテ社会の人間関係』と文明論(7)日本型組織とリーダーシップの問題

日本軍研究で知られる『失敗の本質』よりも前に、日本型組織の弱点を指摘していた『タテ社会の人間関係』。日本の軍隊と英米の軍隊を例にとって、人間関係を重視する日本型組織の特徴を鋭く指摘、さらに法然と弟子の話を取り上...
収録日:2024/05/27
追加日:2024/09/19
2

オウンゴールも!?ロシアにとって許しがたいNATO拡大の背景

オウンゴールも!?ロシアにとって許しがたいNATO拡大の背景

ロシアのハイブリッド戦争と旧ソ連諸国(1)ロシアの勢力圏構想とNATO拡大

長期化の様相を呈しているロシア・ウクライナ戦争。ウクライナに対してロシアが仕掛けているのは、多角的な手段を用いた「ハイブリッド戦争」である。それはいったいどのような戦略なのか。本シリーズ講義では、まずはこの戦争...
収録日:2024/07/25
追加日:2024/09/18
廣瀬陽子
慶應義塾大学総合政策学部教授
3

人の資本主義とは――新しい人間像と現代資本主義への警鐘

人の資本主義とは――新しい人間像と現代資本主義への警鐘

人の資本主義~モノ、コトの次は何か?(1)「人の資本主義」とは何か

「人間とは何か」「資本主義とは何か」、この二つの問い、その概念は歴史の上で常に変化し続けているという中島氏。「人の資本主義」は人と資本主義の合成語だが、両者を結合するとどのような反応がもたらされるか。今よりもよ...
収録日:2024/04/11
追加日:2024/07/27
中島隆博
東京大学東洋文化研究所長・教授
4

どうすれば「最高の睡眠」は実現するか…健康な睡眠とは?

どうすれば「最高の睡眠」は実現するか…健康な睡眠とは?

「最高の睡眠」へ~知っておくべき睡眠常識(1)健康な睡眠のための方法

人生の約3分の1を、人は寝て過ごす。人間にとって不可欠な「睡眠」について、まだ分かっていないことが多く、睡眠ストレスや寝不足に悩む人は多い。現代人はどのように生活すれば最高の睡眠を得られるのだろうか。その前に、そ...
収録日:2021/06/23
追加日:2021/09/14
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授
5

生物学的性差と文化的ジェンダー概念の入れ子構造の難しさ

生物学的性差と文化的ジェンダー概念の入れ子構造の難しさ

ヒトの性差とジェンダー論(5)生物学的性差と文化

第二次世界大戦下、その影響で飢餓が続いたオランダで集団としてそのときに生まれた男の子にゲイが多いという話がある。それは母親が極度のストレスを受けた生物学的影響だというが、一方で日本の戦国時代のような戦場で見られ...
収録日:2024/05/18
追加日:2024/09/16
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長