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DATE/ 2018.05.29

誕生月が「学歴」にも影響するってホント?

 プロスポーツ選手になる人は4~6月生まれが多い、というのは有名な話です。2011年時点で、プロサッカーJ1リーグ、プロ野球12球団に所属する選手の誕生日を調べたところ、4~6月生まれが最も多く、1~3月生まれが最も少ないという結果が出ています。4~6月生まれは同じ学年の中でも身体面、精神面での発育が早いため、他の子よりも試合出場機会にも恵まれていたことが原因だといわれています。

 これは同じ学年でも4月生まれと3月生まれでは約1歳ほどの実年齢の差が生まれるためだといわれています。特に幼少期には実年齢の差は大きく、早く生まれた子の方が体も大きく学修スピードも早いことは想像に難くありません。この実年齢の差が与える影響を「相対年齢効果」といいますが、実はその影響はスポーツだけでなく学業にも及んでいるのです。学業におけるこの効果の大きさを調べた、東京大学の川口大司教授が2007年に発表した論文『誕生日と学業成績・最終学歴』をもとに解説していきましょう。

論文で実証された誕生月による学力の差

 論文では、3つの観点から相対年齢効果をはかって結論を導き出しています。その1つめが小中学生を対象とした『国際数学・理科教育動向調査』(TIMSS)と呼ばれる国際比較教育調査です。小学校3、4年生と中学2年生、それぞれを対象に数学と理科の成績を調査したところ、4月1日生まれ(学年のうちの最年少)より4月2日生まれ(学年のうち最年長)の方が偏差値にして2~3高いという結果が明らかになりました。

 2つめは国私立中学校での割合です。公立中学と国私立中学それぞれに在籍する生徒の誕生月を調べたところ、公立中学はどの月も均等であるのに対して、国私立は1~3月生まれが少ないことが分かりました。国私立中学へ進学する子どもは全体の5%程度ですが、同一学年中の最年少より最年長の方が国私立へ進学する確率が2.5%高いという調査結果も出ています。

 そして3つめは四年制大学の卒業率です。対象者のうち男性27%、女性9%が四年制大学を卒業している割合でしたが、同一学年中の最年長と最年少では男性で2%、女性で1%の差があることが分かりました。こうした結果から、何月に生まれるかということが学力、学歴に影響を及ぼすことが明らかになっています。

誕生月よりも評価が影響する?

 こうした傾向は統計として見ることができるものの、何月に生まれたかですべての能力値が決まるわけではありません。実年齢の差そのものが生み出す相対年齢効果の影響は幼少期が一番大きく、大人になると消滅していくといわれています。しかし、幼少期に相対年齢効果の影響によって自分が受けた評価、周囲を見て自分に下す自己評価がどんなものだったかは、成長していく中で自信ややる気に大きく関わってくる部分となります。川口教授はこうした相対年齢効果によって受けた自己評価は成長しても消えることはなく永続的だと述べています。

 データとして1~3月生まれより4~6月生まれの方が優れた結果があるものの、自分や自分の子どもが早生まれだから能力が劣ると悲観的になる必要はありません。2014年のサッカー日本代表に選出された23人のうち10人が早生まれだったという事実もあり、誕生月がすべてを決めるわけではないのです。そうしたデータにとらわれすぎず、能力をのばすように心がけることが大切ですね。

<参考サイト>
・労働政策研究・研修機構:誕生日と学業成績・最終学歴
http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2007/12/pdf/029-042.pdf
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