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DATE/ 2018.07.11

SDGsとは? 「誰も置き去りにしない世界」のつくり方

2017年後半から関心が急上昇

 SDGs(エス・ディー・ジーズ)という言葉を聞いたことがある人は多いことでしょう。

「Sustainable Development Goals=持続可能な開発のための目標」。略して「SDGs」。2030年までに、先進国も新興国も途上国も、あらゆる垣根を越えて協力し、より良い未来をつくろうと、2015年9月に国連で採択された17個の目標のことです。

 最近、このSDGsへの注目がますます高まり、企業のガバナンスやビジネスの現場への影響も大きくなってきました。

 国連で決まったのは2015年ですが、「2017年後半ごろからのSDGsへの関心の高まりには、目を見張るものがあります」とは、SDGsの第一人者で慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授の蟹江憲史氏の現状分析です。

 蟹江氏は、SDGsの策定過程から関わっており、現在は、日本政府SDGs推進本部円卓会議委員、国連大学サステイナビリティ高等研究所シニアリサーチフェローなど、国内外で要職を担い、研究と実践の両立を図る研究者です。2018年5月には、蟹江氏が「想像以上の展開」という「SDGsの今」がわかるビジュアルガイドブック『未来を変える目標 SDGsアイデアブック』を、紀伊國屋書店から監修出版しました(編著:一般社団法人 Think the Earth)。

国連全加盟国が合意した17個の目標

 SDGsとは、今より良い世界にしたいと願う世界中の多くの人が協力してつくりあげた「未来を変える目標」です。「2030年の世界の姿」をあらわした目標の集まりなのです。

 経済・社会・環境、つまり人類が地球で共に生きていくためのあらゆる分野の課題が「17個の目標」にまとめられています。

1.貧困をなくそう
2.飢餓をゼロに
3.すべての人に健康と福祉を
4.質の高い教育をみんなに
5.ジェンダー平等を実現しよう
6.安全な水とトイレを世界中に
7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに
8.働きがいも経済成長
9.産業と技術革新の基盤をつくろう
10.人や国の不平等をなくそう
11.住み続けられるまちづくりを
12.つくる責任 つかう責任
13.気候変動に具体的な対策を
14.海の豊かさを守ろう
15.陸の豊かさも守ろう
16.平和と公正をすべての人に
17.パートナーシップで目標を達成しよう

 17個の各目標の下には、より具体的な「ターゲット」が掲げられており、その数は169個に及びます。

 決定プロセス自体もとてもユニークで、世界中で多様なメンバーが協議を重ね、3年がかりでまとめられました。なんと、オンライン調査を通じて、世界中から1000万人もの人々の声も集めています。そして、国連のすべての加盟国がこの目標に合意しています。これは実にすごいことで、SDGsの重要性と社会的インパクトの大きさがわかります。

「飢餓と飽食を同時に解決する」方法

 「本当にそんな未来がくるの?」と思う人もあるかもしれません。でも、採択から3年、すでに世界の各地で、ユニークなアクションは始まっており、未来は、少しずつではありますが、変わりつつあるのです。

 大事なのは「統合的に考えること」と蟹江氏は言います。たとえば「テーブル・フォー・ツー」という途上国の食糧援助の取り組みは、この活動に参加する飲食店や企業の社員食堂などで食事をすると、その代金から20円(学校給食1食分相当)が途上国に寄付されるしくみです。

 しかも対象メニューはカロリー控えめのヘルシーなもの。飢えに苦しむ人と、飽食で不健康になっている人。両者が食べ物を分けあい、二つの問題を一度に解決しようというアクションなのです。「真逆のアンバランスを組み合わせる」というアイデアが未来を変えた一例です。統合的に考えることで、また別のアイデアが生まれてくるかもしれません。

誰でも「好きに採って食べていい」

 また蟹江氏は、これからの時代に必要なのは、「つながりを考え、新たな行動や活動を生み出す“やわらかい発想”です」とも。そうした発想が生んだ驚くべき未来が、イギリスの小さな田舎町トッドモーデンで始まっています。

 この町では、庭、道沿い、店先、駐車場のすみ、警察署や病院の前など、あらゆるところに食べられる植物が植えられています。そして、なんとなんと、それを誰でも自由に採って食べていいのです。植えているのは町の普通の住民たち。「何それ、信じられない!」と思いませんか?そうですよね。そうだと思います。実際、最初は周囲も半信半疑だったのでしょう。看板には「Incredible Edible(信じられないかもしれないけど、好きに採って食べていいよ)」と書かれているのですから。

 もとは主婦たちのおしゃべりから生まれたというこの活動、今ではすっかり定着し、町には緑があふれ、世話をする人や採る人たちに会話が生まれ、観光客もやってきたといいます。この取り組みはそのまま「インクレディブル・エディブル」と呼ばれ、活動の輪は、ほかの町へ、さらに世界へと広がっています。

誰も置き去りにしない世界へ

 これら2つの事例は、いずれも先述の『未来を変える目標 SDGsアイデアブック』で紹介されている事例のひとつ。本書では、17個の目標それぞれについて、情報やデータをわかりやすいイラストやグラフにしたインフォグラフィックと、計34個の「未来を変えたアイデア」実践事例が紹介されています。

 SDGsがめざすのは「誰も置き去りにしない」世界です。その先にある持続可能な世界、すなわち「次なる世界」のリーダーになるのは誰なのでしょう。いま、世界は、いよいよ新しいフェーズを迎え、パラダイムの地殻変動のまっただ中にいます。

<参考文献>
『未来を変える目標 SDGsアイデアブック』(Think the Earth著、蟹江憲史監修、ロビン西マンガ、紀伊國屋書店)
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784877385132

<関連サイト>
慶應義塾大学 蟹江研究室
http://kanie.sfc.keio.ac.jp/index.html
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