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DATE/ 2020.06.02

哺乳類のさまざまな「生き残り戦略」

 世の中では、歴史的にもいろいろと生き残りをかけた戦いが繰り広げられてきましたが、そもそも私たち哺乳類も、さまざまな作戦を駆使して生き残り、今の繁栄を得ているのです。その作戦をいろいろ見てみると、「コウモリと人間は仲間である」、こんな驚くべき事実も浮かび上がってきます。コウモリと霊長類は生存競争に勝ち残っていくために、進化の過程でいくつか同じ選択をしているからです。

 その選択とはどんなものなのか。そして、哺乳類はどのような作戦をもって生き残ってきたのか。国立科学博物館の動物研究部脊椎動物研究グループ研究主幹・田島木綿子氏に伺いました。

なぜ、哺乳類は「胎生」を選択したのか

 哺乳類の基本的な特徴として、有性生殖を行い、胎生であること、子を乳で育てることなどが挙げられます。実は、その一つ一つに、哺乳類の生き残り作戦の秘密、工夫が埋め込まれています。

 まず、なんといっても見逃せないのは、哺乳類が獲得した「胎生」というスタイル。まだ恐竜が地球上を闊歩していた時代、哺乳類は恐竜と比較すると小さなネズミほどの大きさで生きしのいでいました。しかし、恐竜は卵で子どもを産み落としていたため、自分が餌を探しに行くときは、卵から離れなければなりませんでした。これに対して、胎生を選んだ哺乳類は、大事な子どもを体内に収め、一体化して無事に成長させることができました。この作戦のおかげで、哺乳類はより確実に子どもを産むことができ、その後の地上の生存権が恐竜から哺乳類に手渡されたのだといえます。

 胎生で無事、この世に命を得た子どもも子どもなりに生き残り作戦を実行します。その一つが表情筋なのです。表情筋というと、笑ったり泣いたり表情をつくるための機能を思い浮かべますが、哺乳類にとって表情筋の本来の機能はおっぱいを吸うこと。この表情筋のおかげで子どもは栄養たっぷりの母乳を吸って、成長していくことができるのです。

難産であるがゆえの親子の密な関係

 こうして、哺乳類は胎生、つまり子宮をお腹の中につくって産むというスタイルに加え、お乳を吸って大きくなるという方法をとり、繁栄の道を歩みました。

 田島氏によれば、哺乳類の子宮には5つのタイプ、胎盤には4つのタイプがあります。そうした複数のタイプから、コウモリとヒトは同じ単子宮、同じ盤状胎盤を自分たちに一番いいかたちだと判断して選んでいるのです。

 ちなみに、ヒトは哺乳類の中でも一番難産です。胎盤で子どもと母親が握手をして連結することで、母体から胎児に栄養補給がされ、胎児から母体へ老廃物の処理などがされるのですが、この握手がいちばんしっかりしている、つまり難産という危険を冒しているのがヒトのような高等霊長類です。

 難産である以上、命の危険が伴うわけですが、それを乗り越えた親子関係はとても密なものとなる。一方、安産な動物ほど、早く乳離れ、親離れするといいます。ヒトはリスクを負っても親子の密な関係を維持する選択をしたということです。

父としての戦略と努力の証拠

 ここまでが哺乳類の母と子による戦略だとすれば、当然、父としての戦略もあります。それは生き残り以前の、いかに産ませるか、産んでもらうかの大作戦。そのために、田島氏曰く「オスは非常にがんばって」おり、その努力の証拠は立派な歯や角、そして陰茎に現れるといいます。

 例えば、ネコ科動物の陰茎の表面にはトゲトゲがあり、それでメスの膣内を刺激して排卵させ、受精の確率を上げています。草食動物の場合は、天敵に襲われないうちに一瞬で交尾を終わらせる必要があります。そのため、彼らは繊維弾性型という種類の陰茎を選択しました。これはある程度の大きさのままお腹の中に陰茎が収まっているというもので、こうすればすぐ交尾の態勢に入れるという利点があるのだそうです。

 つまり、オスの特徴的な形状は子孫を残すために施された作戦の一つだったということです。ということで、哺乳類には生き残りのための父と母と子の共同戦略がいろいろと潜んでいるのです。
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