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DATE/ 2021.05.12

「地方公務員」の給与の実態とは

 コロナ禍で、公務員を志望する大学生が増えています。とくに地方公務員は、社会的貢献度の高さ、地域に密着した仕事の魅力をあげる学生も増加。でもやはり一番の理由は「安定している」からでしょう。「働き方改革」の方向性も変化しつつある今、地方公務員の給与や退職金の実態を調べてみました。

地方公務員の給与は、本当に民間より高いのか?

 地方公務員は、2020(令和2)年4月1日現在、276万2,020人。部門別には教育、警察、消防、福祉関係が約3分の2を占めています。ピーク時より減ったとはいえ、同じ時期の労働力人口6817万人中の4%が地方公務員。正規職員・従業員数3563万人中では7.8%を占めることになります。

 そんな地方公務員(平均年齢42歳)の平均給与月額は360,949円(うち諸手当が43,956円)。一方、厚生労働省の「令和2年賃金構造基本調査」によると、民間の正社員・正職員の平均給与(男女)は40~44歳で343.5万円。月割りにすると286,250円で、地方公務員の79%にしかなりません。さらに言うと、上の諸手当には期末手当(民間でいうボーナス)が含まれていないので、実質的にはもう少し差が広がります。

 退職金については5年に一度しか発表されておらず、2019(平成31)年の「地方公務員給与の実態」によると、2018(平成30)年4月からの1年間に退職した20万5439人の平均退職金手当は921万4,000円という数字に達しています。これは自己都合退職や勧奨退職者も入っていますが、定年退職者だけの平均額は1,149万9000円と大台に上ります。

 ちなみに民間企業で退職給付(一時金・年金)制度がある企業は、2018(平成30)年の調べで80.5%。勤続20年以上かつ45歳以上の定年退職者の退職金平均は、大学・大学院卒者で1,983万円、高卒の管理・事務・技術職で1,618万円、高卒の現業職では1,159万円となっています。

都道府県と町村職員では待遇は違うのか

 地方公務員には、東京都や大阪府など都道府県の職員もいれば、政令指定都市、市区町村に属する職員もいます。民間企業より忙しそうな職務もあれば、のんびり見える方々も。では、待遇にはどの程度違いがあるのでしょうか(以下の数字はすべて2020(令和2)年調べ)。

<団体区分/平均年齢/平均給料月額/諸手当月額/平均給与月額>
・都道府県/42.1/324,055/89,667/413,722
・指定都市/41.8/319,806/110,227/430,033
・市/41.9/316,209/76,776/392,985
・町村/41.3/302,270/48,606/350,876
・特別区/40.6/300,184/122,833/423,067

 指定都市と特別区(東京23区)の諸手当が月10万円以上というのが気になります。内訳は、扶養手当、地域手当、住居手当、特殊勤務手当、時間外勤務手当などを合計したもの。指定都市や23区などの都市部で時間外勤務が多そうなのは、うなずける結果です。くり返しになりますが、期末手当、勤勉手当、任期付研究員業績手当や災害派遣手当は含まないため、実際にはこれ以上の収入が見込めます。

職種別では、何系が有利か?

 地方公務員には一般行政職のほか、技能労務職、高等学校教育職、小・中学校教育職、警察職の区分があります。職種別の平均給与月額も見ていきましょう。

<職種区分/平均年齢/平均給料月額/諸手当月額/平均給与月額>
・一般行政職/42.1/316,993/83,867/400,860
・技能労務職/51.3/313,801/60,138/373,939
・高等学校教育職/44.8/372,504/59,009/431,414
・小・中学校教育職/42.1/353,398/55,605/409,003
・警察職/38.4/323,548/133,024/456,572

 警察職の諸手当が他よりも桁違いに多いのは、ご想像通り、ほぼ24時間いつでも緊急の事件対応に呼び出されるのに備えているため。実際に「9時~5時」のような勤務体系ではなく、宿直や日直もあるので、超過勤務が100時間という月も少なくないといいます。

 高校教諭や小・中学校教諭は、都道府県・市町村により地域手当という格差があります。東京都などでは、民間の裁量労働にならい、一般行政職のような超過勤務手当や休日給は支給されず、教職調整額として給料月額の4%が一律支給される動きがスタートしています。

得している市区町村、損している市区町村は?

 地方公共団体の給料月額を同一基準で比較するための指数を「ラスパイレス指数」といいます。国の行政職俸給表(1)に適用される職員の俸給月額を100として計算した指数です。  

ラスパイレス指数は2014(平成26)年以降、平均して100を下回るように調整されていますが、やはり地域によって格差はあります。

 2020(令和2)年4月時点での市区町村(政令指定都市・中核市を除く)のベスト5とワースト5を見てみましょう。

<ベスト5>
1位:千葉県芝山町  103.9
2位:静岡県熱海市  103.5
同2位:京都府大山崎町 103.5
4位:静岡県三島市  103.2
5位:静岡県沼津市  103.1

<ワースト5>
1位:東京都御蔵島村  75.1
2位:大分県姫島村   81.1
3位:沖縄県多良間村  81.6
4位:東京都青ヶ島村  82.3
5位:新潟県粟島浦村  83.4

 ワースト5は、財政再建中の北海道夕張市(89.6)よりもかなり低い指数。その分、物価も安そうなので、損とまではいかないことを願います。

<参考サイト>
令和2年賃金構造基本統計調査│厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2020/index.html
令和2年地方公務員給与実態調査│総務省
https://www.soumu.go.jp/main_content/000722714.pdf
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