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DATE/ 2021.07.25

「成城石井」が安くないのに売れる理由

 スーパー業界は2019年ごろまでしばらく横ばいの状態が続きましたが、コロナ禍における「巣ごもり消費」で売り上げを伸ばしています。一方、こういった動きとは違うところで着実に成長し続けているスーパーに「成城石井」があります。やや「高級」なイメージのあるスーパーですが、この10年で年商は2倍になっているとのこと。いったい何が支持されているのでしょうか。

12年連続の増収増益

 成城石井は1927年東京都世田谷区成城にて誕生しました。果物や缶詰、菓子を扱う食品店でした。スーパーマーケットになったのは1976年、2号店は1988年に横浜青葉台に出店した店舗です。その後、2013年にはワインバー「Le Bar à Vin52 AZABU TOKYO 成城石井」をオープンさせています。会社ホームページの情報によると、2015年の時点では全国に直営店119店、フランチャイズ15店、ワインバー3店の137店舗でした。ここから毎年着実に10店舗程度を出店し、2020年では直営店163店、フランチャイズ店23店、ワインバー7店の計193店舗となっています。また、コロナ禍以前のスーパー業界は成長が鈍化していましたが、成城石井は12年連続の増収増益を達成しています。

 この着実な成長のポイントはどこにあるのでしょうか。代表取締役社長の原昭彦氏は、DIAMOND onlineのインタビューにおいて、「成城石井は『高級スーパー』と言われますが、私は『高品質スーパー』だとご説明しています」と言います。続けて「同グレードの商品と比較するとむしろ安い」とのこと。

本物にこだわる

 たとえば売れ筋の「ミックスナッツ」では、一般的な商品では、マカダミアナッツは原価が高いので入れなかったり、崩れた形のものを入れたりするといったものが多いところ、成城石井では大粒のものをしっかりとした比率で入れているそうです。もちろん商品の値段は上がりますが、品質を落として安売りしない、高品質を維持するという姿勢でこの商品は売れています。これができる理由の一つには、貿易や輸入に強いというポイントがあるようです。

 この点は創業当時から輸入酒を多く扱ってきた経験から、1989年に立ち上げられた輸入貿易会社(現東京ヨーロッパ貿易株式会社)の功績が大きいようです。ワインはヨーロッパなどから日本に入ってきますが、船便だと2ヶ月かかります。途中、常温コンテナで赤道直下を経て入ってくるので、当然日本に来る頃には品質が落ちます。こういった状況だった1980年代に、成城石井は「Reefer(リーファー)」コンテナと呼ばれる「定温輸送」で直輸入するという方法をとります。こうするともちろんコストがかかってしまいますが、成城石井は妥協しません。このコストを下げるために自社でこの輸入貿易会社を作ってしまうのです。

自分たちでやる

 また物流から卸、セントラルキッチン、ネット販売など、サプライチェーンの諸機能をすべて自社で構築しています。これであれば、商社や物流会社などに中間マージンを支払う必要がなく、価格を安くできます。セントラルキッチンは東京都町田市にあり、ここからさまざまな地域の店舗にも惣菜を配送しているとのこと。徹底したこだわりから、和食、中華、洋食、スイーツなどのジャンルで専門の「調理人」がいて、オリジナル商品を開発しています。こうして、2019年には自家製ハム・ソーセージ6品が、ドイツ農業協会コンテストのハム・ソーセージ部門で金賞を受賞(うち2品は3回連続で金賞を受賞)しています。また、ミキシングや成形のための機械はドイツ製のものを使い、燻製用のブナ材もドイツから直輸入しているとのこと。本物の商品への徹底したこだわりがわかります。

 今では30人のバイヤーが世界の展示会に出かけて商品を仕入れているそうです。輸入業者に任せるのではなく、自分たちで見つけて仕入れるのです。こうした徹底した「本物へのこだわり」や「自分たちでやる」というスタンスが、「安心・安全」を求める消費者の信頼を勝ち得ているということのようです。

<参考サイト>
SUPERMARKET 成城石井
https://www.seijoishii.co.jp/
成城石井はなぜ「売れる」のか、ヒット支えるバイヤーと調理人の凄み|DIAMOND online
https://diamond.jp/articles/-/229841
成城石井がスーパー不振の中で「12年連続増収増益」を実現できる理由|DIAMOND online
https://diamond.jp/articles/-/229217

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