テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2024.04.19

「酸性雨」は日本でも降る?人体への影響は?

 環境問題の中で「酸性雨」という言葉を聞いたことがある人もいるでしょう。かつては「酸性雨に降られるとハゲてしまう」という噂があるほどよく聞いた言葉でしたが、2000年以降は話題に取り上げられることも減少しているため、久しぶりに耳にする人もいるかもしれません。なぜ話題に上らなくなったのか、そもそも酸性雨とはどういうものなのか、改めて紹介していきましょう。

酸性雨とは?

 酸性雨とは、二酸化硫黄や窒素酸化物が雨に溶け込み、通常より強い酸性になった雨のことをいいます。二酸化硫黄や窒素酸化物といった大気汚染物質は自動車の排気ガスや石油を燃やしたときに発生するもの。国境を越えて数百~数千キロも遠くの酸性雨の原因にもなりえるともいわれていて、日本にとどまらず世界全体に関わる大きな問題なのです。

 酸性が強いというのは、酸性・アルカリ性の強さを表すpH値が低いということ。中性の値はpH7になりますが、通常降る雨も、すでに空気中の不純物を取り込んでいるため、およそpH5.6程度だといわれています。ひとつの目安として、この数値を下回った場合に酸性雨と呼ばれるようになることを頭に入れておきましょう。

どんな影響があるのか

 酸性雨がもたらす影響はさまざまで、目に見えやすい例ではコンクリートが溶けたり金属が腐食するといった建物への影響が挙げられます。例えば、屋外の銅像に白い筋ができているのを見たことはありませんか? これは酸性雨にさらされたことで金属が溶けてしまったことが原因だと考えられています。こうした現象が銅像だけでなく建造物でも起こってしまい、ひび割れや傷みの原因になってしまうのです。

 一方目に見えにくいものの深刻な問題としてあげられるのが、自然界に大きな悪影響を与えてしまうこと。酸性雨は川や湖に降ることで水質を変えてしまうため、生態系を変化させてしまう恐れがあるのです。また、長期間に渡って降ることで、土壌を酸性化してしまうこともあります。土壌が酸化することで木が育ちにくくなり、森林そのものが枯れる原因にもなる恐れもあるのです。

 注目を浴びた1970年代には「酸性雨が目にしみる」といった人体への影響も取り沙汰されたこともありましたが、今ではすっかりそんな話も聞かなくなりましたよね。それは1970年代に比べ、排気ガスや工場から排出される大気汚染物質など環境の規制が厳しくなったことで、国内での被害が見られなくなったからだと考えられます。

酸性雨は過去のものではない

 ただし、日本で酸性雨が降らなくなったわけではありません。神奈川県川崎市が毎月発表している環境総合研究所酸性雨データを見てみると、降雨のpH値が5.6以上のこともありますが、5.6を切るのも珍しくないことがわかります。話題に上らなくなっただけで、酸性雨は私たちの身近にあって、少しずつ土壌を酸性化していったり、建物や銅像に影響を与えていったりしているのです。

 酸性雨が降らないようにするにはどうすれば良いのかと考えることは、その他の環境問題について考えるきっかけにもなります。私たちが直面する課題はさまざまですが、それらを改善する根本には普段の私たちの生活があります。無駄な資源は使わない、少ないエネルギーで生活できるように工夫するといった地球に優しい生活を心がけることが、改善のきっかけになっていくのです。改めて環境問題に対して自分に何ができるか、考えてみてはいかがでしょうか。

<参考サイト>
・いま、酸性雨はどうなっているの?|ウェザーニュース
https://weathernews.jp/s/topics/201905/290115/
・酸性雨の知識|気象庁
https://www.data.jma.go.jp/gmd/env/acid/
・酸性雨について|アジア大気汚染研究センター
https://www.acap.asia/acidrain/
・環境総合研究所酸性雨データ(2021年度)|川崎市
https://www.city.kawasaki.jp/kurashi/category/29-1-10-2-1-14-4-10-0-0.html

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

『失敗の本質』より先に指摘した日本型組織の弱点

『失敗の本質』より先に指摘した日本型組織の弱点

『タテ社会の人間関係』と文明論(7)日本型組織とリーダーシップの問題

日本軍研究で知られる『失敗の本質』よりも前に、日本型組織の弱点を指摘していた『タテ社会の人間関係』。日本の軍隊と英米の軍隊を例にとって、人間関係を重視する日本型組織の特徴を鋭く指摘、さらに法然と弟子の話を取り上...
収録日:2024/05/27
追加日:2024/09/19
2

オウンゴールも!?ロシアにとって許しがたいNATO拡大の背景

オウンゴールも!?ロシアにとって許しがたいNATO拡大の背景

ロシアのハイブリッド戦争と旧ソ連諸国(1)ロシアの勢力圏構想とNATO拡大

長期化の様相を呈しているロシア・ウクライナ戦争。ウクライナに対してロシアが仕掛けているのは、多角的な手段を用いた「ハイブリッド戦争」である。それはいったいどのような戦略なのか。本シリーズ講義では、まずはこの戦争...
収録日:2024/07/25
追加日:2024/09/18
廣瀬陽子
慶應義塾大学総合政策学部教授
3

人の資本主義とは――新しい人間像と現代資本主義への警鐘

人の資本主義とは――新しい人間像と現代資本主義への警鐘

人の資本主義~モノ、コトの次は何か?(1)「人の資本主義」とは何か

「人間とは何か」「資本主義とは何か」、この二つの問い、その概念は歴史の上で常に変化し続けているという中島氏。「人の資本主義」は人と資本主義の合成語だが、両者を結合するとどのような反応がもたらされるか。今よりもよ...
収録日:2024/04/11
追加日:2024/07/27
中島隆博
東京大学東洋文化研究所長・教授
4

どうすれば「最高の睡眠」は実現するか…健康な睡眠とは?

どうすれば「最高の睡眠」は実現するか…健康な睡眠とは?

「最高の睡眠」へ~知っておくべき睡眠常識(1)健康な睡眠のための方法

人生の約3分の1を、人は寝て過ごす。人間にとって不可欠な「睡眠」について、まだ分かっていないことが多く、睡眠ストレスや寝不足に悩む人は多い。現代人はどのように生活すれば最高の睡眠を得られるのだろうか。その前に、そ...
収録日:2021/06/23
追加日:2021/09/14
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授
5

生物学的性差と文化的ジェンダー概念の入れ子構造の難しさ

生物学的性差と文化的ジェンダー概念の入れ子構造の難しさ

ヒトの性差とジェンダー論(5)生物学的性差と文化

第二次世界大戦下、その影響で飢餓が続いたオランダで集団としてそのときに生まれた男の子にゲイが多いという話がある。それは母親が極度のストレスを受けた生物学的影響だというが、一方で日本の戦国時代のような戦場で見られ...
収録日:2024/05/18
追加日:2024/09/16
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長