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DATE/ 2022.09.23

現場作業員が夏でも長袖を着る理由

 この夏もかなり暑い日が続きました。こういった状況でも道路工事や建設・塗装作業など、さまざまな土木・建築工事が行われています。作業している人をよく見ると、真夏でもやや厚手の長袖・長ズボンを着用しています。相当暑いのではないかと思われますが、これにはどういう理由があるのでしょうか。

法律で義務付けられているわけではない

 作業員の服装については、労働安全衛生規則の第110条で「事業者は、動力により駆動される機械に作業中の労働者の頭髪又は被服が巻き込まれるおそれのあるときは、当該労働者に適当な作業帽又は作業服を着用させなければならない。」と示されています。つまり特に長袖についての決まりはないようです。他の箇所にも目を通してみましたが、長袖や長ズボンに関する規定はありません。また厚生労働省の「未熟練労働者に対する安全衛生教育マニュアル」では、災害防止の基本を教える際、服装については以下のようなルールを提示しています。

1.作業時は定められた安全な服装を着用する。
2.作業服装は身体にピッタリした軽快なものにする。
3.長袖の場合は袖口を締め、上着の裾はズボンの中に入れる。
4.刃物やドライバー、ドリルなどをポケットの中に入れて作業しない。
5.タオルや手ぬぐいを首に巻いたり、えり巻、ネクタイなど巻き込まれるおそれのあるものは着用しない。
6.保護具・指示された保護帽などの保護具は、必ず正しく着用する。

 「長袖の場合は~」との記載はありますが、ここでも特に長袖と決められている訳ではないようです。こうみてみると、長袖着用は法律的に定められたものではなく、作業を安全に円滑に行うために多くの現場が自主的に規定していると考えていいようです。

作業現場での危険は多岐にわたる

 では現場ではどういうリスクがあるのでしょうか。ネット上の現場作業員の声を拾ってみると「半袖だと転倒や接触などでの怪我のリスクがある」といったものや、「(長袖は)直射日光による体力の消耗を防げる」というものがあります。また、特に溶接作業やグラインダーを使うような作業では火花が散ったり、鉄粉が高速で飛散したりすることは避けられないとのことです。

 こういった作業では、身体を保護できる長袖や長ズボンを着用していなければ作業は進められないことがわかります。さらに、現場によっては長袖・長ズボンに加えて、長靴や安全靴、軍手・革手袋、ヘルメット、防塵マスクといったものを装着することも珍しくありません。現場での安全への配慮は、まずは直接的な身体的危険をどう防ぐかということにあるようです。

熱中症対策は必須

 こうなると問題となるのが熱中症です。厚生労働省によると、令和3年(2021年)における職場での熱中症による死傷者(死亡・休業4日以上)は、561人となっています。これは前年比で41%減ではありますが、それなりの人が業務中に熱中症で亡くなっています。このうち、死亡者数は20名で、死亡災害の発生は8月に集中しています。また、職場で起きた熱中症の約4割は建設業と製造業で発生しています。

 こういった状況を受けて、最近は空調機能付き作業服、つまりファンがついた作業着もよく見かけるようになりました。現場では一度体験したら手放せないという声もあるようです。ただし、空気そのものが暑い環境や湿度が高い場所ではでは効果がない、ほこりや粉塵が発生するところでは使えない、ファンやバッテリーが重い、膨らむので邪魔になるといった声や、そもそも値段が高いという声もあります。熱中症対策はまだ改善の余地が残っているようです。

<参考サイト>
労働安全衛生規則|e-GOV法令検索
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347M50002000032_20220531_504M60000100091
未熟練労働者に対する安全衛生教育マニュアル│厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000118557.html
令和3年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)を公表します|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_25950.html
建設現場における熱中症対策事例集|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/tec/sekisan/sekou/pdf/290331jireisyuu.pdf
空調服の効果って実際どうなの?お客様の生の声をインタビューしてみました!|ユニネクマガジン
https://www.uniformnext.com/blog/archives/6076
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