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女子高生の噂から取り付け騒動へ―金融市場の「悪い均衡」

中国経済の動揺と正確な楽観論の必要性

伊藤元重
東京大学名誉教授
概要・テキスト
1973年の豊川信用金庫事件の舞台となった豊川信用金庫(2006年)
中国経済をいかに見守るかは、頭の痛い問題だ。目先の思惑で皆が動けば、経済の良い均衡はあっという間に崩れ、危機が表面化してくる。そのために必要な「正確な楽観論」について、東京大学大学院経済学研究科教授・伊藤元重氏に語っていただく。
時間:12:31
収録日:2015/09/17
追加日:2015/10/15
≪全文≫

●「質への逃避」に走らせる中国経済の動揺


 ここ2、3カ月ぐらい、中国経済にいろいろなことが起き始めています。中国の不動産バブルがはじけたので不動産価格が下がるのは当然ですし、株価もかなりの操作によって無理やり高くなったわけですから暴落するのは当然です。また、中国経済の急成長が続くこともあり得ませんから、成長率の低下も当然です。ただ、困ったことは、それが世界経済全体にある種の危機としてつながるのではないか。その思惑が急速に広がったことだろうと思います。

 ここのところずっと、金融業界では「Flight to Quality(質への逃避)」が起きていると、よく耳にします。彼らの用語で、「株はちょっと危ないから売ってしまおう」と決め、その資金を安全な国債にシフトしていく。あるいは新興国の為替は危ないようなので、売ってしまって円やドル、最近ではユーロなどの安全通貨の方にシフトしていく。ということで、急速にマーケットが動揺していることがうかがえます。

 その間、株価や為替はヨーヨーのように動いていますので、今の状況についてかなり深刻に受け止めている人が多いのだろうと思います。


●危機は長時間かけて訪れるが、展開は急激で速い


 以前にこの場でお話ししたかどうか記憶にありませんが、この状況を見て思い出されるのは、MIT(マサチューセッツ工科大学)の故ルディガー・ドーンブッシュ氏の言葉です。もう亡くなってしまいましたが、彼は大変著名な国際金融学者で、通貨危機や為替問題の大家でした。彼が、亡くなる前に吐いた名言に「金融危機や通貨危機などの危機は、来る来ると言っていてもなかなか来ない。けれども、本当に来てしまったら世の中はあっという間に変わってしまう」といった内容のものがありますが、これがまさにポイントだろうと思います。

 過去を見てもそうだと思います。例えば、日本の1990年代後半、山一證券の破綻に端を発した大きな金融危機がありました。考えてみると、それより何年も前から日本の金融機関は相当深刻な不良債権を抱えていて、このままでは持たないのではないだろうかと言っている専門家はたくさんいたわけです。

 でも、危機は来ない。だから、なんとなく「そうは言うけれども大丈夫なんだろう」と思っていた。ところが三洋証券が破綻し、山一証券が破綻して、北海道拓殖銀行がおかしく...
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