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安保法制は9.11とイラク戦争の宿題を解決できていない

日本の安全保障をめぐる3つの論点

曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
概要・テキスト
湾岸戦争(「砂漠の嵐」作戦)
政治学者で慶應義塾大学大学院教授の曽根泰教氏が、日本の安全保障をめぐる3つの論点について解説する。湾岸戦争後、日本も積極的な国際貢献が求められるようになった。安保法制はこの課題の解決だったが、9.11後の課題には対応できていない。ODAやPKOによる国際貢献だけでなく、世界秩序の設計・維持への貢献が求められている。
時間:12:28
収録日:2017/05/11
追加日:2017/05/29
カテゴリー:
≪全文≫

●日本の安全保障を考える3つの論点


 日本の安全保障を考えるときの、いくつかの論点を整理してみたいと思います。大きく3つの観点を取り上げます。1つ目は、日本の安全保障の国際環境は変化した、ということです。国際学者や地域研究の人たちは、これを強調しています。2つ目は、国内の法的安定性、あるいは憲法的秩序を維持すべきだ、というものです。これは主として、憲法学者や裁判所が述べている主張です。3つ目は、世界の中の日本の役割です。世界の秩序を誰がつくって、誰が維持しているのか、それはどのように変化してきているのか、という観点です。


●湾岸戦争以後、憲法9条が言い訳として通用しなくなった


 憲法に関する議論をする前に、国際的な環境からいえば、日本はある意味で戦争原因でした。第2次大戦の当事者として、連合国を向こうに回し、戦争を仕掛けて敗れた側です。その意味では、連合国そのものである国連の旧敵国条項の中に、日本やドイツ、イタリアが入っているのは当然です。連合国から見れば、戦争の原因は日本やドイツでした。そこで、日本側には戦争をしないよう、自己抑制がかけられることになりました。憲法9条です。これは日本からすれば自己抑制ですが、海外から見れば戦争の原因を取り除く、ということでした。

 しかし戦後、非常に早い段階で冷戦が起こります。連合国の中で対立が生じたのです。そこで、冷戦と冷戦後の条件の2つを考える必要があります。日本の憲法的議論は、1990年の湾岸戦争の時に、ある意味で破綻していました。それまでは、日本は憲法9条があるので国際貢献はできない、ということが認められてきました。しかし、湾岸戦争の時には、それが言い訳として通用しなくなりました。「血を流せ」「汗を流せ」「お金だけでは十分ではないぞ」となったのです。では日本に何ができるのか、という宿題が課せられました。


●安保法制は9.11とイラク戦争の宿題の十分な解決ではない


 ある意味で、安保法制はこの宿題を解決しました。しかし、9.11とイラク戦争という、冷戦後のさらなる節目の課題は解決していません。もともとテロというものは、警察が取り締まります。しかし、国を超えた大規模なテロが起こるとなると、軍隊が防ぐのか、どこまでが警察活動なのか、という問題が生じます。これは今、世界を悩ませている難しい問題です。

 イラク戦争に関しては、西...
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