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DATE/ 2024.09.02

和食で放射能が抜ける?世界も驚く和食のすごさ

 小泉武夫先生といえば「発酵仮面」の名でも親しまれる、我が国発酵学の第一人者。食に関する著書は100冊以上、日本経済新聞の夕刊連載「食あれば楽あり」は、1994年以来30年間続く人気コラムです。そんな先生を囲んで、「和食の深い秘密」をテーマとしたウェビナーが開かれたのは2023年1月。和食の魅力を科学的に解き明かしつつ、独特のユーモラスなお話に、画面越しでも笑いの絶えない愉快で貴重な時間となりました。その一端をご紹介しましょう。

和食の定義、そして原点とは?

 いくら小泉先生が和食の信奉者であっても、「和食で放射能が抜けるとは言い過ぎ?」あるいは「和食といってもいろいろ種類があるはずでしょう?」と疑問に感じられた方もいるでしょう。でも、それは失礼ながら、小泉先生による「和食の定義や基本」をご存じない証拠だと思います。

 小泉先生が掲げる「和食の定義」とは、「和食は免疫食事である」こと、さらに「和食の基本」は「一汁一菜」にあり、と言われます。「免疫食事」とは、食べた人の免疫力を上げる食事を指します。免疫はひとまず「病気をブロックする生体のしくみ」と考えておけばいいでしょう。和食を食べていれば病気になりにくい体ができるということだと、先生はさまざまなデータを駆使して説明されます。

 では、免疫食事としての「和食の特徴」とはどんなものなのでしょうか。

1. 良い水での調理
2. 心と体のための食事(植物中心の食材、滋養のある食事)
3. 出汁(だし)を用いるから美味しい
4. 発酵食品が極めて多い。食べて体をつくる
5. 哲学性の宿る(侘び、寂びのある)食事

 この5つをフルに感じられるのが「一汁一菜」の醍醐味です。とくに先生が推奨するのは、味噌汁。塩分を気にして、味噌汁離れする方も見受けますが、それをカバーして余りある健康効果を期待できるのが、味噌汁です。なにしろ大豆は「畑の肉」。何も入れない味噌汁は、それだけで「肉汁」なのだと先生は強調します。

 なかでもお勧めの「一汁」は、味噌汁の中に納豆を入れ込んだ納豆汁。出汁のきいた熱い味噌汁で伸ばすことで、納豆の匂いが嫌いな人でも、ふんわりと立つ豆のいい香りに惹かれて食べてしまう一品。しかも、上の5項目をすべて備えています。

 また、驚くことに「一菜」はもともと「漬物」だったといいます。「飯汁香」の三位一体に、ときどき楽しみとして副菜をつけるのが、和食の基本ないし原点なのです。

味噌が放射能を排出するという驚くべき実験

 和食の基本があまりにシンプルなのに驚かれたでしょう。つくる人にとっては毎日献立を考えなくてもすみ、食べる人にとっては、心身の養いとなる最強の食事。その秘密を、先生のウェビナーからさらに探りましょう。

 答えは、先生が長年研究してこられた「発酵」にあります。「一汁一菜」の飯汁香には、少なくても味噌と漬物という発酵食品が含まれます。納豆汁にすれば、さらに一つ、漬物に甘みをプラスしようと醤油を一と垂らしすれば、もう1種類、発酵食品が加わります。味噌汁に野菜を入れて具沢山にすると、発酵にプラスして、食物繊維が摂れることになります。

 さぁ、小泉先生流「和食」のイメージが、はっきりしてきましたね。和食は発酵食品を摂取して、腸内の免疫細胞を活性化させるためのスイッチのような働きをするのです。

 なかでも味噌汁の「味噌」に放射能による害を軽減する効果があることは、広島大学渡邊敦光名誉教授の実験で明らかにされています。マウスを用いて「A:普通のエサ」「B:食塩入りのエサ」「C:味噌入りのエサ」を与えたところ、Cの場合のみ小腸の細胞が再生することが分かったのです。すなわち、味噌を食べれば放射能排出が期待できるということです。

 2020年まで広島大学医学部で客員教授をしていた小泉先生は渡邊教授の取り組みを熟知し、互いに刺激しつつ、講演会や著書で何度も協力されています。30年以上続いている実験は世界からも注目されているので、成果がまとまるのもそう遠くなさそうです。
 

植物食の日本に侵入してきた「肉食」の怖さ

 小泉先生が考える「和食」には、もう一つのキーワードとして「7つの食材」があります。和食ではこれらを中心にして、他のものはあまり食べないということです。

1. 根茎 ゴボウやダイコンなど土の中のもの
2. 菜もの ハクサイやコマツナなどの菜っ葉類
3. 青果 果物
4. 山菜、きのこ
6. 大豆
6. 海藻
7. 穀物(米、麦、そばなど)

 これらが和食の「主材」であり、肉・魚・卵などの動物性タンパク質は「副材」として、たまのご馳走と扱われてきたようです。つまり、日本人の食事は植物頼み、上から下まで植物性の材料が占める「質素な食事」なのです。

 しかし、そうした和食を皆が口にしていたのはせいぜい第二次大戦前まで。敗戦後、欧米食に近づいて肉食が当たり前になってきたことが消化器系疾患や生活習慣病の増加につながっているのではないかと、小泉先生は危惧しています。

 残念ながら、それを実験することになってしまったのが、1945(昭和20)年にアメリカに併合され、1972(昭和47)年に返還された沖縄の人びとです。

 長く中国の影響下にあり、宮廷から派生した琉球料理を食べ、
「ヌチグスイ(命の薬)」として薬食同源の実践をしてきた沖縄県民。かれらは、統計の始まった大正末期から昭和初期にかけて、「長寿ナンバーワン」として自他ともに知られていました。

 ところが併合後の沖縄では生活スタイルがアメリカ流を余儀なくされ、食生活もガラッと変わって、缶詰のポーク(ランチョンミート)を子どもたちが口にするようになりました。その結果、当初は「都道府県別平均余命」番付で男女共に1位だった沖縄が首位から転落。男性は1990年、女性は2010年のことでした。

「腸活」派も「アンチエイジング」派も

 献立に頭を悩ませて、豚や牛や鶏などの動物性タンパク質をなんとか取り入れようとしている日々の苦労がバカらしく思えてきませんか。

 さらに、古くから肉食を続けてきた民族には、「民族の知恵」として、「肉には野菜を組み合わせる」という伝統がある、と小泉先生は言います。新しく肉食習慣を取り入れた日本人は、その点も出遅れ気味。野菜離れと肉食化は、日本人の腸を直撃し、大腸がんなどの増加をもたらしています。

 最近は「腸活」と称して、ヨーグルトやサブリメントで補う人が多いようですが、朝食だけでも本来の質素な和食、2種類以上の発酵食品を含み、食物繊維もたっぷりな一汁一菜の食事に戻してみるのはいかがでしょうか。

 発酵食品は腐ることなく、滋養・栄養成分が蓄積されています。そのため腸内環境が整い、免疫が高まります。そういう食事を続けていると、がんの不安からも解放され、アンチエイジング効果も期待できます。

 和食はユネスコ無形文化遺産(世界遺産)に登録されましたが、それは「保護すべき」対象として扱われているということでもあります。それほど、和食の素晴らしさに注目するのは外国人が多く、日本人は振り返ろうとしないことにも危惧されています。「食乱れて、民族滅ぶ」という持論のために、日々和食の効能を説く小泉先生。これほど素晴らしい和食を外国からの観光客に独占させる手はありません。毎日の食で健康な日々を取り戻してこそ、お酒もおいしくいただけそうです。

 出汁をとったりご飯を炊いたりする手間はありますが、「食事はこういうもの」と決めることで、あれこれ迷う必要がなくなり、結果的には時短にもつながるのではないでしょうか。詳しくは、以下の動画で。

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
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