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真っ正直なサウジより一枚上手の老獪なイラン

中東最新事情を読む(3)イランとサウジ、どちらが上手?

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
歴史学者・山内昌之氏が引き続き、イランとサウジアラビアの対立について解説する。イランが原油増産を公言すればサウジアラビアも増産に出る。イランが経済制裁解除を手にすればサウジアラビアは核開発の意志を表明する。拮抗する中東二大国対立だが、山内氏が一枚上手と評価する国はどっち?(全7話中第3話)
時間:09:19
収録日:2016/01/27
追加日:2016/02/25
カテゴリー:
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≪全文≫

●石油増産で張り合う二国


 皆さん、こんにちは。

 イランが経済制裁を解除され、そして、ウィーン最終合意と呼ばれる核合意を今後順調に履行し続けるとすれば、最低1000億ドルと目されている、邦貨換算約12兆円のイランの海外資産の凍結が解除されることとなります。これは、一説には1500億ドルもあるのではないかという説もありましたが、しかし、最低1000億ドルと考えておきますと、このほとんどはイランが自由に投資や貿易への原資としてつぎ込むことができるお金になります。したがって、イラン経済は上向きになることは確かです。

 ただ、制裁解除後のイランは、何と言っても石油の輸出の問題がありまして、「輸出量を日量50万バーレル増やす」と公言しました。50万バーレル増やすということは、今、原油価格が安くなっている市場において、さらに原油安を促進するということを意味します。これには大きな意味があります。それは、原油安によってサウジアラビアという最大の産油国、アラブの盟主サウジアラビアの弱体化を図るという戦略にほかなりません。サウジアラビアの方も、ここはイランに負けていられません。やはり増産で応じながら、石油輸出国機構(OPEC)の主導権を確保することを狙っています。そこで、サウジアラビアとイランとの間には、宗派対立や政治危機に加えて、安い油価をやせ我慢する、福沢諭吉の言葉ではありませんが、まさに『瘠我慢の説』、やせ我慢する消耗戦争を当面始めたということが言えます。とはいえ、前回も最後に申し上げたように、イランの文明論と歴史観に裏打ちされた冷静かつ長期的な戦略に、いつもやや一籌(いっちゅう)を輸する、すなわち、やや譲りがちになるのは、サウジアラビアの方です。


●イランとの国交断絶後、サウジは核開発の意志を公言


 イランとの国交断絶宣言をする前、ウィーン核合意に対応したサウジアラビアの多角的な外交は、それなりに目立つものもありました。昨年2015年6月のサウジアラビアの副皇太子にして国防大臣、ムハンマド・ビン・サルマーンのロシア訪問は、象徴的でした。副皇太子のロシア訪問は、ちょうどEUとアメリカがロシアを経済ボイコットし、ウクライナ問題でモスクワを制裁している時期と重なっていました。

 このとき、サウジアラビアは、ロシアに16基の原子炉建設を認め、運用、監督において...
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