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英語の授業から見えてくるヒトのことばの特殊性

道徳と多様性~道徳のメカニズム(5)道徳とことばの関係は?

鄭雄一
東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻教授
概要・テキスト
道徳を科学で見る応用問題の2番目は、「道徳とことばの関係は?」である。ヒトのことばの特殊性がバーチャルな出会いを成立させ、道徳につながった、と東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻教授・鄭雄一氏。英語の授業を思い出しつつ視聴されたい。「道徳と多様性」を科学の眼差しで捉えていく連続講義は、西洋哲学の限界にも迫る。(全6話中第5話)
時間:08:36
収録日:2016/10/07
追加日:2017/02/02
≪全文≫

●英語の授業から、ヒトのことばの特殊性が見えてくる


 5番目に考えたいのが、「道徳とことばの関係は?」です。察しのいい方は、もうここで、なぜ人間だけこんなに特殊なことができるのかということに関して、恐らくことばが絡んでいるのだろうと推察されたと思います。では、ヒトのことばはどう特殊なのか。これは英語の授業を思い出していただくと分かりやすいでしょう。

 まず、「三人称」です。これは何かというと、今ここにいない第三者の情報を、伝え手と受け手から独立したかたちで扱えるということです。人間のような言語を持っていない動物は、今ここにいない第三者の情報を伝え手と受け手から独立した形では扱えません。つまり、その場にいないと情報を伝達できないのです。第三者や第三者が残した何か物質的なものがないと、情報は扱えないということです。

 もう一つは「時制」です。これは現在以外の時間を使えるということです。

 この二つがあることで時間的・空間的に遠く隔たった、今ここにいない第三者に関する情報を伝達・処理できる、ということになります。厳密な意味でこれができるのは人間だけです。部分的にあるという動物は幾つかあるのですが、時空を完全に超えられるのは人間の言語だけです。


●バーチャルな出会いが生む教祖への親しみ


 ということは、バーチャルな出会いが可能になることを意味します。その典型例は、信徒にとっての教祖です。ブッダはもう2千年以上前に死んでしまっているため、今までにあったことは絶対になく、これから会うことも決してありません。そして、遺伝的に見ると、間違いなく赤の他人です。でも、時に信徒は、自分の親兄弟よりも、この教祖に対して親しみを持つのです。

 アメリカでは、非常に敬虔なキリスト教徒の親がゲイの子どもたちを勘当して見捨てたため、その子どもたちがストリートチルドレンのようになって非常に貧困な暮らしをしているという問題がかつて話題になったことがあります。つまり、彼らはキリストのことばを、自分の本当の子どもよりも大事に思ったということです。

 これが完全な形できるのはヒトのことばだけです。断片的な例として、ベルベットモンキーやミツバチのダンスなどがありますが、よく見ると、時間と空間を部分的にしか超えられていないのです。
 

●ヒトのことばのあいまいさ


 では、ヒトのことば...
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