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トランプ大統領の中東政策のメタファー「ISRAEL」

トランプの中東戦略とその影響(1)解読の鍵は「ISRAEL」

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
イラン核合意破棄、米大使館のエルサレム移転、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への支援停止。危うさを増すトランプ大統領の中東政策は、どこへ向かうのか? 歴史学者・山内昌之氏が、象徴的な頭文字「ISRAEL」に即して、トランプ氏の中東戦略と国際社会への影響を解説する。(全2話中第1話)
≪全文≫

●トランプ大統領の奇妙さ、中東で顕著に


 皆さん、こんにちは。

 アメリカのドナルド・トランプ大統領の国連総会での演説や、安倍総理大臣との日米間の関税に関わる交渉や対談を通して、トランプ大統領の国際関係における立ち位置の不思議さ、奇妙さがますます浮かび上がってきています。北東アジアにおいて、北朝鮮の非核化を実現すること自体は間違ってはいないのですが、それと在韓米軍の撤退をリンクさせようとするような大胆なカードの切り方もトランプ大統領の特徴です。

 特にトランプ大統領の大胆さ、奇妙さは、中東において目立ちます。中東においては、同盟国であり、シリア問題においては最重要当事国となったイスラエルのために、アメリカ大使館のエルサレム移転を実現して、周辺のアラブ諸国はもとより、ヨーロッパ各国等の反発を買ったことは、記憶に新しいものです。前後してイラン核合意(包括的共同作業計画=JCPOA)を一方的に破棄したことも記憶に遠くありません。

 トランプ大統領は、パレスチナ自治政府とイスラエルの仲介者を自負してきた米歴代政権の姿勢を放棄し、安全保障面におけるイランの脅威を力で除去したがるイスラエルの構えを支持することを明白にした感があります。そして、パレスチナ自治区を支援してきた国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)に対するアメリカの拠出金を全面的にストップするといったような態度に出ています。

 こうしたトランプ大統領の姿勢は、いわゆるシオニストプロテスタンティズムともいうべき大統領の見解や信仰、あるいは娘のイバンカ・トランプ氏とその夫のジャレッド・クシュナー上級顧問がユダヤ教正統派に属するといった環境に左右されていることも、あながち間違いとは言えません。


●対イラン政策の不安定さ


 大統領の中東政策を形作る要素を簡潔にまとめようとすれば、中東政策の頭文字をメタファー(隠喩)として象徴的に並べて「ISRAEL」と見ることができます。今日は、単なる語呂合わせではなく、複数の言葉や概念を組み合わせて、私なりに「ISRAEL」という言葉に照合しながら、トランプ氏の政策が単なる思いつきや即興性ではなく、ある種の確信性に基づいていることを、皆さんと一緒に考えてみたい次第です。

 まず「I」は、イスラエルを意味すると同時にイランを意味します。トランプ大統領の安全保障担当補佐官であるジョン...
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