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「神経性やせ症」と脳の変化…原因と症状とは

睡眠:体、脳、こころの接点(8)神経性やせ症

尾崎紀夫
名古屋大学大学院医学系研究科特任教授/医学博士
概要・テキスト
かつて拒食症と呼ばれた「神経性やせ症」は、明らかにやせていても本人が異常と認めず、治療を拒否しがちな点に難しさがある。シリーズ最終回では、生命に関わる「神経性やせ症」の原因や症状、特に脳構造に与える変化を解説する。(全8話中第8話)
時間:08:17
収録日:2018/08/24
追加日:2019/01/25
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≪全文≫

●脳が変化すると、自分を見る目が変化する


 「神経性やせ症」の原因は、まだ分かっていない部分もありますが、その人の持って生まれた遺伝的な要素がある程度関係しているらしいとされます。少し分かっていることとしては、彼女たちはもともとやや完璧主義の傾向が強いとか、もともと体の感覚がやや鈍く、空腹感をあまり感じないといった脳の特性があるのではないかといわれています。ともあれ思春期に入り、誰もがやせたいと思い始めてくる時期になると、ダイエットによる体重減少が起こります。ここでとどまれば回復するのですが、栄養不足になって脳に影響を与えてしまうと、困ったことになります。

 脳の変化が起きてしまうと、「自分をどう捉えるか」というところがゆがんでしまって、自分のやせを認識しないばかりか、他の人からの意見も受け入れなくなるからです。結果的にその状態が慢性化して、アメリカの統計によると、年間で患者1000人のうち5人は死んでしまうといわれています。前回お伝えしたカレン・カーペンターの例を挙げましたが、そうしたことで多くの方が亡くなっているのです。残念ながら日本でも亡くなっている方は多く、われわれとしても大きな問題であると捉えています。


●「神経性やせ症」は葛藤条件では判断が弱くなる?


 問題は、脳の変化がどのように起こるか、ということです。例えば、私どもの研究で分かっているのは、彼女たちが一般的な能力が高く、勉強も割とできたりすることです。ただし、脳による判断の中の一部がうまくいかないということです。

 スライドの下の課題では、矢印が指す方向を素早く押すテストをします。矢印が真ん中にあって左向き、右にあって右向きなのはいいのですが、左にあるのに右向きだと、われわれは矢印の位置にとらわれます。右向きの矢印が右にあればすぐに右を押せますが、左にあるのに右向きであると、位置によって干渉を受けてしまうのです。

 このような課題で、彼女たちは間違いを起こしやすいことが分かっています。もっと一般的なもの、干渉を受けないような課題では特段悪くはなりません。このあたりに、彼女たちの脳機能の変化のポイントがあるように思われます。干渉が生じ、葛藤的な状況になったとき、判断がうまくいかないということです。

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