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道徳を可視化するための新しい欲と道徳の分類

AIに善悪の判断を教える方法~新しい道徳論(6)欲と道徳の関係

鄭雄一
東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻教授
概要・テキスト
欲に応じて道徳を段階的に分類できると、鄭雄一氏は主張する。今までのように、欲と道徳を分けるのではなく、道徳の原動力に欲求があるという立場から、新しい分類方法を提唱し、道徳の可視化を目指すのである。(全8話中第6話)
時間:09:43
収録日:2018/06/20
追加日:2019/07/03
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≪全文≫

●道徳を可視化するための分類を作る


 ここでいよいよ道徳の可視化という問題に入っていきます。ではどのように議論するかですが、今までどちらかというとまるごと「道徳は」とか、まるごとまとめて「幸福は」という議論が非常に多かったと思います。古典的な著作も、そういうものが非常に多いのですが、これでは多分議論が進まないだろうと思っています。

 実は道徳にも幾つかの段階があって、それぞれに違う要素が入っています。そう考えたときに道徳というのは、今までどちらかというと禁止命令としてばかり捉えられていました。こういうことしてはいけません、ああいうことしてはいけません、と言って、本当に禁欲的なお坊さんみたいな人しか、最高レベルには到達できないような捉え方をされてきたのです。

 しかしながら私たちは、それはちょっとおかしいのではないかと思いました。実は道徳も、道徳感情も原動力は欲ではないか、欲と道徳を二元的に相反するものとして捉えるのではなくて、道徳感情にも欲が原動力としてある、欲に段階があれば、道徳もその欲の段階に応じて分類できる。このように考え方を変えてみました。


●マズローの欲求五段階説は非論理的な分類である


 そこで、マズローの欲求五段階説をまず見てみました。これは非常に有名なものですし、皆さんもよく知っているだろうということで、見てみました。そうすると、このように5段階に分けています。彼はモチベーション、動機を基準にして分けているのですが、よく見るとこの安全欲求と生理的欲求は、動機が似ていて冗長なのです。われわれは、これは統一すべきだと考えます。それから承認欲求、所属と愛欲求も動機が似ていて冗長なのではないか、これも1つにした方がいいのではないか、と判断しました。

 その一方で自己実現欲求という最高レベルの欲求については、とても悩みました。なぜなら最近、宗教原理主義者による自爆テロなどがあるからです。狂信的な人で、このような純粋な動機を持って自爆テロをしている人がいます。そうするとそういう人たちが、本当の聖人みたいな人と同じところに入ってしまうわけです。彼らも自己実現欲求なのですが、これはおかしいだろうと思います。これを分けないのはおかしいのではないかということで、これは分類が不足しているということになります。論...
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