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国家の三要素からなる「死活的国益」とは何か?

国家の利益~国益の理論と歴史(14)国家の「利益」とは何か

小原雅博
東京大学名誉教授
概要・テキスト
前回の講義では「国家理性」と「権力政治」の関係から「国益」とは何かを探った。今回は、国家の3要素(国民、領土、主権)と「国際益」「人類益」から国益を考えてみる。人類共通の利益であるはずの国際益(世界益)を追求する立場からは、21世紀的外交のあるべき姿も見えてくる。(全16話中第14話)
時間:10:17
収録日:2019/04/04
追加日:2019/08/04
カテゴリー:
≪全文≫

●国家の3要素からなる「死活的国益」とは


 皆さん、こんにちは。今回は「国家の利益とは何か」ということで、これを国家の3要素と「国際益」「人類益」から考えてみたいと思います。

 まず、国家の3要素からなる「死活的国益」について考えてみましょう。

 ここでいう「国家の利益とは何か」ですが、第一に、それは、「国家」が追求する利益であって、個人や企業が追求する利益ではありません。だとすれば、「国家」こそが追求する、国家に特有の利益があるはずです。

 となれば、そもそも「国家」とは何なのかということを考えなくてはいけません。国際法学においては、「国家」とは、1.永久的住民、2.明確な領域、3.実効的支配を及ぼす政府、4.他国と関係を取り結ぶ能力、の四つの要素を持つ法人格とされるのが一般的です。

 ここでは、主権すなわち対内主権と対外主権という概念で、3.と4.を一つに括って、「国家」を国民、領土、主権の3要素からなる国際社会の主体として捉えることにします。

 これら三つの要素のどれか一つを欠いても、国家として存続するのは困難となります。その意味で、国家の3要素の維持、すなわち、国民の安全、領土の防衛、主権の確保は、国家が守るべき重要な利益です。これらは、国家の生存に関わる「死活的国益」であるといえます。


●国益の調整による「国際益」を考える


 次に、「国家」の利益と言う場合、それは「他の国家」の利益ではありません。しかし、両者は一致することもあります。そうした共通の利益が二国間から多国家間に広がれば、「国際社会」共通の利益となることもあります。

 まず、「他の国家」について考えてみましょう。世界には約200の国家が存在しています(国連加盟国は193カ国)。そして、これらの国全てに国益があります。それらの国益は互いに一致したり、対立したり、その関係は複雑です。外交に関わる者は、世論を形成する国民を含め、自国に国益があれば、他国にも国益があるという国際社会の現実を認識する必要があります。その上で、対立する国益を平和的手段(例えば、対話や交渉など)によって管理し制御すると同時に、共有する国益を広げ、制度化する(例えば、国際条約をつくるなど)努力を積み重ねることが重要です。国益の調整、それが外交の要諦です。

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