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背弧海盆と南海トラフの謎――なぜ沈み込みが始まったのか

海底の仕組みと地球のメカニズム(7)背弧海盆と南海トラフの謎

沖野郷子
東京大学大気海洋研究所教授
概要・テキスト
「背弧海盆」といわれるシステムがある。日本周辺には水深が異なる盆地のような場所が複数存在する。プレート境界で沈み込みが起こったときに火山ができるが、火山と海溝の反対側にある「背弧」と呼ばれるところに小さい中央海嶺のようなものができる。しかし、そうした小さな海底拡大のシステムについてはいまだによく分かっていない。これが1500万年ほど前に沈み込みが始まった南海トラフの謎にもつながっている。(全8話中第7話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:11:51
収録日:2020/10/22
追加日:2021/06/13
≪全文≫

●日本列島の周辺は水深も性質も違う不思議な場所


沖野 元の話に戻って、日本の近くの話題に移ります。

 中央海嶺は火山ができるシステム自体、比較的簡単です。そのために、地球上の海底は大陸に比べるとあまりバリエーションがなく、割と世界中どこでも同じ種類の石が採れるし、同じような形をしています。そういうものが1億年とか、場合によってはもっと短い期間動いて、海溝で沈み込むわけです。

 ところが、日本列島はよく見ると結構不思議なことになっていて、これまでにも(シリーズ内で)お伝えしましたが、太平洋プレートは東北日本のほうに沈み込んでいますし、フィリピン海プレートも沈み込んでいます。しかし、そもそも海溝の深さが違いますし、沈み込むほうの深さ自体も違います。

―― こうやって見ると、とても違いますね。これはどのぐらい違うものなのですか。

沖野 地図の下に書いてありますが、大雑把にいうと(太平洋プレートのほうの)青い部分は5,000メートルとか6,000メートルくらいです。こちら(フィリピン海プレートのほう)は緑なので4,000メートルほどです。

―― そこだけで2,000メートルほど違っているわけですね。

沖野 違います。なぜかというと、前回までの中央海嶺の話につながっています。海嶺で(海底が)できたとき、プレートは温かいけれども、それが広がっていくと、その後は火山活動がないのでひたすら冷やされる。冷えると密度が高くなる。そうすると、(海底は)沈むので、中央海嶺から離れれば離れるほど、つまり古くなればなるほど、海底は深くなる、ということです。

 なので、こちら(太平洋プレートのほうの青い部分)はとても古くて、1億年以上。一方、こちら(近畿・四国の南のほう)はとても若いのです。水深を見れば一目瞭然で、一番古くてもたぶん2,500万年ぐらいと若い。

―― 全然オーダー(桁数)が違いますね。

沖野 はい。その真ん中のあたりですと、たぶん1,500万年ぐらいで非常に若い。そういう性質の違うものが沈み込んでいることが、ここでのいろいろな地震の状況に(その作用として)利いているかなと思います。

―― しかし、日本の近くで、そんなに短い距離ですが全然性質が違うことがあるというのは大変な場所ですね。

沖野 大変な場所です。


●「背弧海盆」という小さな海底拡大...

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