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男女同業?妻子共有?私有財産廃止?…プラトンの真意とは

プラトン『ポリテイア(国家)』を読む(10)男女平等、家族廃止、財産共有論

納富信留
東京大学大学院人文社会系研究科 研究科長・学部長・教授
概要・テキスト
「中心巻」と呼ばれる『ポリテイア』第5~7巻は、これまでの「正義とは何か」という議論に対する脱線部として、「不正とは何か」という議論の前に置かれる。理想のポリスを考える上で「コイノーニアー(共同・共生)」というキーワードが出てくるのだが、ソクラテスは「コイノーニアーをめぐって3つの大波が来る」と言う。その1つ目は「男女同業」、2つ目は「妻子共有と私有財産の廃止」である。かなり過激な提案だが、それぞれどういった意味なのか。(全16話中第10話)
時間:12:48
収録日:2022/09/27
追加日:2023/02/17
タグ:
≪全文≫

●プラトン「対話篇」における「脱線」の位置付け


 「正義とは何か」という規定が一応終わった後、「今度は不正の話に行こうではないか」とソクラテスが言い始めた途端に、ドラマ的に少し面白い展開になります。アデイマントス(兄)とポレマルコスの二人が出てきて、「先ほどの議論では足りないところがあります。ソクラテス、ちゃんとやってください」と、割って入るのです。

 前回われわれはちょうど第4巻の終わったところだったので、ここから現代の巻分けでいくと第5~7巻の3つの巻に入るのですが、ここで1つのまとまった議論が始まります。私たちは「中心巻」と呼んでいますが、この真ん中の3つの巻は脱線部なのです。

 なぜなら、1巻から始まった「正義は、いいものですか」「正義とは何ですか」という議論をした流れで、「不正とは何ですか」という議論に入っていく前の真ん中の部分では、正義の話はそれほど中心には出てきません。

 つまり、今の話をしていく中で出てきた疑問に対して、少々余分なことが始まるのです。これを「脱線」と呼びますが、プラトンの「対話篇」の中では、あちらこちらで脱線が起こります。つまり、いろいろな対話で起こるのですが、それがいつも重要なところ、特に真ん中で起こります。

 これはどういうことかというと、ちゃんとした議論をやっていて、「どうしても必要なことがあるから、もうちょっと深入りしよう」というときに出てきます。ここで何が議論されるかというと、だいたい「哲学とは何か」という問題が議論されていく。つまり、それが挟まらないと全体の議論がうまくまとまらないということで、「冠」のような感じです。そういう議論の箇所を、何回かに分けて見ていきましょう。


●理想的な国家と「コイノーニアー」の問題


 アデイマントスとポレマルコスが「(議論が)必要だ」と言ったのは、ソクラテスが先ほど理想的な国家を営むときには「妻子共有」、つまり奥さんと子どもはみんなの共同であると言ったことについてです。それについてソクラテスは少し触れただけでしたが、(彼らは)「それは重要な問題ではないですか。ちゃんと言ってください」と言うわけです。

 ソクラテスは渋々、「いや、それは避けて通ろうと思っていたのだが、まあ言うとなったら全部やり直しだね」と。それでもやってくれと言われるので、言い始めるのです。なぜ「やり直し」...
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