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なぜ日本の「世界史」はいびつなのか…東洋史と西洋史の違い

モンゴル帝国の世界史(1)日本の世界史教育の大問題

宮脇淳子
公益財団法人東洋文庫研究員
概要・テキスト
『モンゴルの歴史〔増補新版〕』(宮脇淳子著、刀水書房)
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「世界史はモンゴル帝国から始まった」――この言葉の背景には、日本の「世界史」教育の問題点がある。そもそも日本では明治以後、戦前まで、「(ドイツから見た)西洋史」と「(漢籍ベースの)東洋史」および「国史」(日本史)の3つに分かれていた。戦後日本の世界史教育は、その文壇の影響を色濃く受けて、同時代的に世界を俯瞰することができていない。しかも、それぞれの分野で扱う歴史にも偏重がある。なぜそのようないびつな構造になってしまったのか。世界史を見る重要な視点として、13世紀に地中海文明とシナ文明をつなげたモンゴル帝国の歴史に迫る。(全7話中1話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:14:57
収録日:2022/10/05
追加日:2022/12/31
≪全文≫

●日本の東洋史と西洋史はどのようにできたか


―― 皆さま、こんにちは。

宮脇 こんにちは。

―― 本日は宮脇淳子先生に、「モンゴル帝国の世界史」というテーマでお話をいただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

宮脇 よろしくお願いいたします。

―― 今回、モンゴル帝国のお話を伺うわけですが、そこになぜ「世界史」がつくのか。逆にいいますと、「世界史を理解するためには、まずモンゴル帝国を理解しなければ理解が深まらない」ということだと思うのですが、ぜひその点を最初に教えていただければと思います。

宮脇 私の夫であり、先生でもある岡田英弘(歴史学者、東京外語大学名誉教授)が提唱し始めた「世界史はモンゴル帝国から始まった」というキャッチ―な言葉があります。これは大げさに言った言葉ですが、何が言いたかったかというと、日本の世界史教育の問題点をはっきりさせたかったのです。

 日本の世界史教育は、戦後に始まります。戦前に何があったかというと、「東洋史」と「西洋史」と「国史」の3つに歴史が分かれていました。

―― 「東洋史」というと、基本的には中国とインドですね。

宮脇 なぜなら、ほとんどの資料が漢字で書かれたもので、他の資料がないから、「東洋史」というと「シナ史」なのです。司馬遷の『史記』以来、二十四史といわれる「正史」が書かれてきたものをつなぐのが、日本の明治以来の東洋史でした。

 そして、日本の西洋史は、東京帝国大学にドイツの実証史学の人を招いた、ドイツから見たヨーロッパ史だったのです。

―― ドイツから見たヨーロッパ史なのですね。

宮脇 だってドイツ人が教えたのですから。そういうものが西洋史として、漢籍を勉強した日本人学生たちによってまずスタートし、その後で対抗して東洋史が生まれるわけです。

―― 最初に西洋史があった、と。

宮脇 そうです。「西洋史」をまず歴史として輸入しました。それで、「いやいや、アジアにだってきちんと歴史があるのだから」ということで、日本人が漢文で書かれたものを西洋史風に筋をつけたのが「東洋史」なのです。

 もともとのシナの漢籍は、自分たちの世界観で「天命が皇帝に降りて」ということしか書いていません。ところが、日本人は西洋史を見習って(東洋史を)作ったので、そこに「いやいや、東南アジア(の歴史)も入れましょう」「中央アジア(...
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