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溶ける氷河、沈む島―温暖化対策の鍵の一つは「飽和」

持続可能で明るい低炭素社会(1)転換期の「飽和」

小宮山宏
東京大学第28代総長/株式会社三菱総合研究所 理事長/テンミニッツTV座長
概要・テキスト
「低炭素化」社会が、いよいよ経済的にも視野に入ってきたと、株式会社三菱総合研究所理事長で科学技術振興機構低炭素社会戦略センター長・小宮山宏氏は語る。その際のキーワードは「飽和」だ。一体何が飽和したのか。なぜ飽和の時代を迎えているのか。(2015年6月23日開催 一般社団法人地球温暖化防止全国ネット設立5周年記念式典基調講演「持続可能で明るい低炭素社会 ビジョン2050の実現は視野に入った!」より、全4話中第1話目)
≪全文≫

●低炭素化の実現が視野に入ってきた


 小宮山でございます。今日、私がお話しさせていただくのは、「低炭素化」です。理想的にはそうあるべきだし、技術的にも可能で、実現させる必要はあるが、現実的にはなかなか難しい。これがこれまでの低炭素化の評価でした。それがようやく経済的にも低炭素化の実現が視野に入ってきたという話をしたいと思います。

 内容は三つです。一つ目に、いま私たちには「転換期」を生きているという認識があり、キーワードは「飽和」だということ。二つ目に、ビジョンとして「プラチナ社会」を提案していること。プラチナ社会の内容で今回のテーマと特に関連するのは、「省エネルギー」「都市鉱山」「再生可能エネルギー」です。最後に、これらのビジョンが経済的視野に入ってきたことを申し上げたいと思います。

 ここでこのような写真を出す必要はないかもしれませんが、温暖化は大変なのです。氷河は溶け、沈み掛けている島が出てきています。なぜいま世界がこのような大転換期にあるのか、温暖化にどのような対策を打てばよいのか。その答えの一つが「飽和」にあると思います。飽和は、後で申し上げるように、経済にとってあまり良いことではありませんが、温暖化対策を考える上で重要な要素・条件となっています。


●明確な格差をもたらしたのは、産業革命だ


 このグラフですが、縦軸は世界各国それぞれの1人当たりのGDPを、その時々の世界平均の1人当たりのGDPで割った値です。先進国はいずれも3から4の辺りにありますが、それは、私たちを含む先進国の人々が世界平均の3、4倍の所得を得ているという意味です。

 1000年前は、どの国も同程度の所得でした。産業のほとんどが農業だったからです。多くの人が食べ物を作るために生きていました。1人当たりの食物量はそれほど変わりませんから、国ごとの貧しさの差はなかったのです。

 そこに明確な格差をもたらしたのは、産業革命です。現在は、農業だけを見ても、少なくとも産業革命当時の200倍、生産性が高まっています。昔は、100人に99人が穀物を作り、ようやく全員に行き渡る穀物を生み出していたのですが、今は穀物だけなら、200人に1人が大規模農業を行えば、全員が食べていくことが可能です。これが、生産性が200倍上がったことの意味です。

 このような高い生産性を真っ先に手に...
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