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現場は最優秀だが政策の過ちで「精神論の罠」に陥る危険も

徹底検証・日本のコロナ対策(9)日本型モデルは成功するか?

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
概要・テキスト
最終話では、あらためて第7話、第8話で見てきた経済シミュレーションを総括する。その違いは一目瞭然である。確かに、国民の理解、自覚、行動に期待し、最少の私権制限で対応してきた「日本型モデル」は、世界でも独特のものであった。そして、それで感染率や死亡率の拡大を最少に抑え込んできた日本国民や医療体制、保健所体制など、現場のモラルと頑張りは極めて優秀だったと評価できる。しかし、このままもし第2波、第3波が来たら、乗り切れるだろうか。いまは「有事」であるとの思い切った政策こそが必要であろう。強力な政策支援があれば、日本型モデルは世界の貴重なモデルになりうる。だが、政策が失敗したら「精神論の罠」に陥ってしまう危険性もあるのである。
(本講義では、島田晴雄先生が作成されたレジュメ内容を本文として掲載いたします。そのため、一部、動画では触れられていない部分もありますが、資料としてご活用いただければ幸いです)(全9話中第9話)
時間:03:59
収録日:2020/05/19
追加日:2020/05/23
≪全文≫
《3.感染抑制策と政策対応の経済効果の総合評価》
◆「シナリオA」は逐次・小出しの政策対応の結果、直接の経済コストは20.5兆円(2020年4月7日)。緊急経済対策の財政コストのみ勘案だが、ウイルス感染を早期に収束できないためにGDP成長率は2020年に▲15.0%、2021年も▲10.0%となった。
◆「シナリオB」では、休業補償など大型対策を早期に徹底的に実施した結果、直接コストは53.0兆円と多額にのぼり、その結果もあってGDP成長率は2020年に▲20%だったが、2021年には感染収束と未来志向の経済戦略の効果もあってGDP成長率は+15%とV字型回復を達成。
GDPを総額580兆円前後と想定すると、2020年と2021年の2年間で、「シナリオB」は「シナリオA」に比べ、58兆円ほど多くなる。小出し逐次対応の政策は、短期には経済コストが節約されるように見えるが、2年間では、早期に大型対策を徹底的に執行する方がV字型回復の効果で経済コスト総額は少なくて済む。
◆そして何よりも重要なことは、小出し逐次政策で感染を早期に収束できなかった場合、中小零細企業などの経済基盤が劣化し、経済全体の活力低下の後遺症が残ることである。


[Ⅵ] 日本型モデルは有効か
【日本型モデル:国民の理解、自覚、行動に期待?】
◆世界の主要なモデルには、中国モデル、欧州モデル、アメリカモデル、アジアモデルなどがあるが、日本はそれらいずれとも異なる「日本モデル」ともいうべき特徴がある。
◆中国は共産党独裁の体制下、国家権力がしばしば私権を超越して徹底的な都市封鎖や外出禁止を強制し、また高度に浸透した情報化を活用して感染経路を究明し、感染拡大を短期で収束させた。
◆欧州諸国は都市封鎖や外出禁止をしたが、イタリアのように悲惨な医療崩壊もあり、人口のわりには大規模な感染爆発の犠牲を払って、ようやく規制解除に踏み出している。
◆アメリカは技術も資源も豊富な先進国だが、指導者の失政で世界最悪の被害を被っている。
◆韓国、シンガポール、台湾などはSARSなどの被害を教訓に感染抑制体制を高度に整備。
◆日本は、伝統的な感染対策で当初は拡大を抑制してきたが、感染拡大の加速に直面して、都市封鎖や外出規制も休業補償もせず、人々の理解と自粛と自主的な行動変化に期待して感染抑制をはかろうとする独特なモデル。

【日本型モデルを支える政策支援の強化】
◆日本型モデルは、強制も罰則もなく人々の理解...
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