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統計とパターン認識と深層学習…論理主義だったAIの変容

ChatGPT~AIと人間の未来(3)第3次AIブームの特徴

西垣通
東京大学名誉教授
概要・テキスト
第2話で見てきたように、AIは「身体的経験」や「母語」を持たないので、理解を間違えてしまいかねない部分が、どうしてもある。だが人間は、そんなAIを「賢い」と思ってしまう。それはなぜなのか。西垣氏は、「コンピュータやAIが、もともと論理主義と深い関係にあったことが大きい」という。だがそれは、実は過去の話なのである。これまでにAIブームは3回起こっている。1950年代の第1次AIブームでは「論理に基づく」ことが重んじられ、1980年代の第2次ブームでは「知識を集めて正しい答えを導き出す」ことが重んじられた。だが、2010年代半ばからの第3次AIブームは「パターン認識と深層学習」を特徴とする。以前とは異なり、1か0かではない多様な判断が可能になったが、それゆえAIでも間違えることが起きてしまう。そのことを、どう考えるべきか。(全8話中第3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:11:24
収録日:2023/03/15
追加日:2023/06/01
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≪全文≫

●人間がAIを「賢い」と思うのはなぜか


―― (第2話で論じていただいた)アウシュヴィッツの例は非常に極端というか、重たく悲劇的な例でしたが、そうではないものも、もしかすると、(AIの解釈の中に)少しずつ「ちょっと違うところ」が入ってきてしまうかもしれない。人間の場合は、(各々の)生活知の中で、「これはちょっと違うんじゃないの」と判断できるものが、(AIでは)そのままの形で出てしまうかもしれません。

西垣 そうですね。

―― そういう性格があるAIであるにもかかわらず、なぜ人間は、AIの回答を見て「やっぱり賢いな」と思ってしまうのか。この点についてはいかがですか。

西垣 今おっしゃったことはとても大事なポイントだと思います。AIはもともと「論理的に正しい」ことでアピールしたものでした。

 ChatGPTのようなAIは少し変わっていて、耳や目に快いといいますか、人間に一歩近づき分かりやすく話してくれるというのが特長になっています。

 ですが、もともとは、コンピュータは間違えないという考えからAIは始まりました。人間には欲望もあるし、嘘もついたりする。それに対して、コンピュータは正確な言説を作り出すということが、AIの研究を導いたモチベーションでした。

 これは、20世紀の初めにバートランド・ラッセルとホワイトヘッドが書いた『プリンキピア・マテマティカ(数学原論)』という哲学書にも現れています。要するに論理主義にもとづく哲学ですね。「世界を論理的に記述し、演繹的に言説を組み合わせることで正確な答えが出てくる」というもので、それが間違いない真実なのだと。

 実は、こうした論理主義という考え方と、コンピュータの間には、非常に深い関係があります。

 チューリングやフォン・ノイマンといった、20世紀の半ばにコンピュータを作っていった人たちの頭の中には、そういった論理主義があります。世界は論理的に秩序だって存在している。それを正確に記述する。こういった分析を速く自動的におこなう機械としてコンピュータは誕生しました。

 これがコンピュータの基本イメージです。ですから、「コンピュータからの出力は間違いなく合っている」という考えが出てくることになります。

 これは大事な点だと思います。というのも、今言ったようなことは、コンピュータの原理をちゃんと学んだ人たちの間ではよく知られたことなので...
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