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「ネット集合知」に対する性善説を覆したQアノン的現実

ChatGPT~AIと人間の未来(6)「ネット集合知」の理想と現実

西垣通
東京大学名誉教授
概要・テキスト
インターネットの創成期は、性善説的な「ネット集合知」に対する楽観主義に満ちていた。「皆で意見をあわせていくと、かなり正確な答えが出てくる」という理論もあり、インターネットの集合知が社会を良くしていくと考えられたのだ。しかし、近年その期待は裏切られている。アメリカでは社会的分断が深刻化する中で、Qアノン運動も盛んになった。それも大きな一因となって、連邦議会議事堂の襲撃という事件まで起きてしまった。Qアノンは、日本で先行していた匿名掲示板から生まれた。日本でも、匿名文化とも相まって、ネットでの他者攻撃が増大しつつある。インターネットの未来はどこへ向かうのか。今、私たちはその岐路に立たされている。(全8話中第6話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:10:34
収録日:2023/03/15
追加日:2023/06/22
タグ:
≪全文≫

●「ネット集合知」の理想と現実


―― もう一点、先生のご著書で印象深かったのが、アメリカ西海岸が象徴的だというお話しでしたけれども、ネットに対する性善説的な考え方です。なぜ、皆の知恵やデータを集めるのがいいかというと、「集合知」といって、皆の知恵が集まってきて、 最終的には「いちばん確からしいもの」が出てくるに違いない。だから、インターネットにつないで、さまざまな人の声を集めることは、すごく社会を発展させるものになる、という性善説的な集合知の考え方がありました。しかし、だんだん(時代が)進んでくるにつれて、特にトランプ政権の頃から、「陰謀論が広まってしまった」「Qアノンのようなものが出てきました」などと指摘されるようになりました。そして、それを信じてしまって、極端な行動に走る人たちも出てきてしまいました。それゆえ、「本当に集合知が正しいのですか」「性善説で良かったのですか」という疑問も出てきました。先生はこの問題についてどうお考えですか?

西垣 一般の人々が自由に発言し、討論しながら物事を決めていくことは、民主主義ですよね。こういう考え方からすると、インターネットやワールド・ワイド・ウェブ(WWW)というのは、どう見ても「良いもの」です。誰でも自由に発言できるのですから。

 特に、私が西海岸にしばらくいた頃は、そのような夢やオプティミズム(楽観主義)が、わりとありました。それはそれで悪いものではないと思うし、Google社を設立した人たちにも、そのような理想主義があったと思います。

 「集合知」には、「皆の意見をあわせていくと、理論的にも正確な答えが得られやすい」という根拠もあります。この考え方は、民主主義と合致していたのです。

 ところが、そのような性善説に基づく楽観主義、特に2000年代半ばくらいに唱えられた「ネット集合知」は、残念ながら、2020年代にはいって「裏切られた」のが現状ではないでしょうか。

 「皆が皆のことを考える」という性善説は公共性重視です。ところが、皆で討論し、衆知を合わせて良い答えを出していく、という方向性が次第に失われていった。今ははっきり言うと、ネットが「他人を攻撃するツール」として使われている。

 民主主義では、自分と異なる意見に耳を傾けて、互いに理解する努力をしあって、そして合意点を見つけていくという手続きがなければいけません。...
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