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「1人の力ではできぬことも集団ならできる」と信じて動く

新型コロナウイルスの克服(3)社会連帯の崩壊が本当の敵

橋本英樹
東京大学大学院医学系研究科 公共健康医学専攻 保険社会行動学分野 教授
概要・テキスト
急激な感染拡大によって、政治や制度に対する信頼が失われている。それを防ぐためには、感染拡大のピークをなだらかにする必要がある。ロックダウンは、そのための1つの手段なのである。(全5話中第3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:10:39
収録日:2020/03/27
追加日:2020/04/01
≪全文≫

●創発性をいかに信じて動けるか


橋本 現在、われわれが目の前にしている状況は、医師がワクチン等をひとさじつくれば解決するようなものでも、ECMO(Extracorporeal membrane oxygenation、体外式膜型人工肺)を4000台用意すれば大丈夫だというようなものでもありません。一般の方々には見えにくいのですが、1人1人がしっかりと動いていくと、1人1人の力ではできないことが集団であればつくることができるということです。最近はやりの言葉でいえば、創発性(Emergence)です。このことを、いかに信じて動けるかなのです。

―― なるほど。


●本当の敵は社会連帯の崩壊である


橋本 このためには、われわれが日本の未来として描こうとしているものを、いかに共有できるかが関わってきます。これには政治の力が非常に大きいと思います。現状では、オリンピックの話などに全て持っていかれています。ですが、オリンピックもさることながら、今ここで問われているのは、日本の経済を含めた社会のあり方そのものです。今われわれが敵にしているのは、ウイルスやそれによるオリンピック中止や延期問題のように見えますが、本当の敵は、社会連帯の崩壊だと思います。

―― それはどういう意味ですか。

橋本 1人1人が、今目の前にある自分の利益のために走ると、全体の最適解を見失ってしまいます。いわゆる、prisoner's dilemma(囚人のジレンマ)の大きい版のようなものです。1人1人が、目の前のことではなく将来を見越して、今自分がどう動いていくべきかを考えながら進んでいくと、自分のためでも、それが人のためにもつながり、その相乗効果で社会全体として1つの大きな力を生むことができます。その可能性をどこまで信じられるかということです。その可能性を持たせるためには、ある程度、将来についての見込みが必要です。

 もちろん、いつ終息するのかに関して、明確な期日を伝えることはできません。これは、現状では理論疫学の専門家にもできないことです。ある意味まだまだボラティリティ(volatility、落ち着きのない性質のもの)です。例えば、今回ロックダウンをして4月いっぱいは封鎖されたとしても、5月の連休でみんながはしゃいでしまうと、また5月にロックダウンをしなければならなくなることも当然あり得ます。

 ともあれ、まず1カ月実施して、結果が見えてきたとき、どうすればいいか分かれば、その...
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